子どもたちに“故郷”を(後編)

投稿日:2022年10月30日 更新日:


プロローグ

里山を元気に駆け回り、のびのびと成長を続ける子どもたちの姿を見て“理想通りの生活ができています”と嬉しそうに目を細める新里さんご夫妻

ご主人の大輔さんは大阪と霧島市牧園町を行き来しながら、企業や行政のPR支援やブランディングに関わる仕事を続けている。 “いつかは自身のルーツである故郷へ帰りたい”、その願いを叶え、豊かな暮らしを続けている新里さんご家族だが、実際に移り住むと見えてくる課題もあるという。新里さんが感じる里山暮らしの課題とは?話しを伺った。

インタビュー:満﨑千鶴 撮影:高比良有城 取材日:2022年7月

里山の暮らしを守るため、今私たちに出来ること

2020年6月、日本一と称された「大茶樹」の2代目(樹齢140年)が保存される大茶樹公園内に新里さんご夫婦がオープンした日本茶サロン『年輪堂』。

大茶樹公園内にある年輪堂

大茶樹公園内にある年輪堂

霧島連山を一望する贅沢なロケーションの中、お店では霧島の有機霧島茶や和菓子などを楽しむことが出来る。お店で提供している和菓子(どら焼きやおはぎなど)は全て奥さまである久美子さんの手作りで、使用される餡子は大輔さんのお母さまの手作りなんだとか。

取材当日、年輪堂オススメのどら焼きを頂いたが、もちもちとした食感の皮にたっぷり挟まった餡子がとても上品な甘さで、久美子さんが点ててくれた抹茶との相性は言うまでもなく抜群だった。

久美子さん手作りのどら焼きと抹茶

久美子さん手作りのどら焼きと抹茶

席は店内に16席・屋上テラスに8席用意されていて、訪れたお客さまは美しい景色を楽しみながら思い思いの時を過ごす。

今では、地域の方はもちろん、県内外からもたくさんの人が訪れ賑わいを見せる年輪堂だが、もともと新里さんご夫妻が開業を決めたキッカケは、移住して気づいた大きな地域課題に歯止めをかけるための一手だった。

「この町に移住してきて、子どもたちはとてもいい環境でのびのびと学ばせてもらっているけれど、現在子どもたちが通う中津川小学校は全校生徒16人というとても小規模な学校なので、年度によっては同級生がいないこともありました。

中津川小学校

中津川小学校

小規模なのは決して悪いことではないけれど、このままでは“地域が衰退していってしまう…”という危機感をとても感じました。子供がいないと地域の存続は難しくなっていきますよね…。こんなに自然豊かで良い暮らしがあるのに、衰退してなくなってしまうのはもったいない。全国でも同じ様に、中山間地域は人口減少の歯止めがきかず、各地域における歴史・文化・暮らしの存続が危ぶまれています。

実際、父の故郷である宮古島でも同じように中山間地域が衰退していっている現実を目の当たりにしていたので、なんとか食い止めることができないか?地域の交流の拠点となる場づくりや、里山の魅力を発信できる活動が私たちにできないか?と考えていました。そんな時、私たちが出会ったのが大茶樹公園でした。

大茶樹公園には、樹齢140年の大茶樹がありますが、遡ればそれを受け継ぎ守ってきた人たちがたくさんいた訳で。この場所から地域の特産品である『霧島茶』をフックに、里山暮らしの魅力を発信していけないか…と思い、年輪堂をスタートしました。お陰様で今では、たくさんのお客さまがお店に足を運んでくださいます。

近隣のおばあちゃんが花を積んで持ってきてくれることもあるんですよ! 100歳のおじいちゃん・おばあちゃんをお孫さんが連れて来てくれたり、三世代でお店に来てくれるお客さまも。そんなお店なかなか無いですよね?地域の方がお店でお茶をしながらのんびり過ごしていると、たまたま居合わせた若い世代のお客さまとの交流が生まれたり、移住や里山に関心がある人たちが地元の方と話す機会が生まれたり。

そんな様子を見ると、年輪堂を作って本当によかったな〜としみじみ思います。年輪堂という場を通して、里山の魅力や地域の方々の温かさに触れて頂くことで、移住へと繋がればいいな〜と思っています。」と大輔さん。

“先人たちが時を刻み続けてくれた大茶樹の年輪のように、里山の歴史や文化も年輪を重ね、豊かな暮らしを次世代へとつなげていきたい”という想いをこめ名付けられた「年輪堂」。

大輔さんが名付けた店名の通り年輪堂は今、“過疎化の波から里山の暮らしを守る”という大役を担っている。

霧島の魅力を移住者ならではの視点で紹介~日々霧島~

新里さんご夫婦は年輪堂の他にも、都会では経験することのできない霧島の魅力を“移住者ならでは”の視点で紹介するWEBサイト『日々霧島』を運営している。

こちらのサイトでは、住む・暮らす・温泉・泊まる・観る・知る・遊ぶ・食べる・のむ・お買い物と、いくつものカテゴリが準備されており、ローカルならではの飾らない日常を写真と共に紹介している。

サイトを覗くと、鹿児島出身の私たちにとって気に留めることもない“何気ない日常”は、誰かにとっては “特別なもの”なのかもしれない…とハッと気づかされる、そんな記事が並んでいた。情報発信を続ける新里さんご夫婦に、改めて霧島市の魅力について尋ねてみると、笑顔で答える。

「霧島市は天候ひとつにしてもとても過ごしやすい土地。それに加え水も美味しいし、そこから生まれる農産物やお茶・お酒、全てが美味しい。移住を決意する時も、この町なら体に良いものを子供たちにたくさん食べさせてあげられると思ったし、温泉も近くにあって、『食と健康』という意味では本当に良いところ。ものすごく暮らしやすい場所だと改めて感じています」と大輔さん。

「私は移住するまで鹿児島には3回しか来たことなかったけれど、当時から霧島の印象は特に良かったですね。車で走った時とても気持ち良かったのを今でも覚えています。何より、想像以上に食べ物が美味しい!本当にビックリ(笑)。お肉が美味しいってことは分かっていたけれど、きっと高いだろうなと…思っていました。

でも実際はお肉も魚も驚くほど安い!大阪で生活していたらこんな料理、日常的には出せなかっただろうな〜と思います。町のあちこちに無人販売が点在していて、新鮮な採れたて野菜が100円で買えるなんて!衝撃だしとてもありがたいです!」と奥さまの久美子さん。

私たちが生活する上で最も重要な『食』。新里さんご夫婦は改めて霧島の豊かさを知り、とても充実した毎日を過ごしているようだ。

移住して手にした“大切な家族時間”

大阪から霧島市牧園町へ移住してきて早6年。今ではすっかり地域に溶け込み、先陣を切る勢いで「町おこし」を行なっている新里さんご夫妻だが、都会での暮らしから里山暮らしへと大きく変化し、不便を感じることはないのだろうか?

「不便…というか、大阪での暮らしと比べて圧倒的に違うのは車がなくては生活出来ない“車社会”だということですね。都会は交通機関が充実しているけれど、ここには交通網がないので。子育て世代だったら子供の送り迎えも必要だし、お年寄りがいる家庭だったら病院までの送迎が必要になってきたり、何かしらのサポートが必要になります。そこは大きな違いですね。」と答える大輔さん。

「毎日車を使う生活なので、主人が出張でいない時は私しか運転できないので、何かあったらどうしよう…という不安が正直最初はありました。でもこの町で暮らしているうちに友達もできて、今ではみんなで協力し合って生活しています。大変な時は地域の方たちが声をかけてくれるので、特に不便ではないかな?」と久美子さん。

どうやら、里山暮らしならではの課題も上手にクリアしていっているようだ。では逆に、移住して来て良かった事、家族の変化について聞いてみると、

「会社勤めではなく、自分たちで仕事をしているというのもきっとあるけれど、仕事のONOFFがしっかり出来るようになりました。大阪にいた時の主人は、いつも時間に追われている印象でした。だけど今はそれを感じることがありません。きっと仕事量は変わらないけれど、側で見ていて気持ちの余裕を感じます。

子供たちは小さい時にこっちに来ているので、今の生活に慣れているけれど、友達との関係も都会よりも近くて、自分の考えを表現できているのでは? 私自身も、時々大阪に帰るともちろん楽しいけれど、暮らすのはこっちがいいですね(笑)。大阪から戻ってくると、旅から戻った時と同じようなホッとする感覚になります。そう考えると、私にとってもここは“故郷”になっているのかな?(笑)」と久美子さん。

「移住して良かったことはいっぱいあるけれど、家族と一緒に過ごす時間が増えましたね。仕事柄もあるかもしれないけれど、一緒にご飯を食べることが普通になりました。心身ともに健康的な暮らしができる様になりました。食べ物もそうだし、環境もそうだし。

犬飼の滝

犬飼の滝

霧島連山の鹿

霧島連山の鹿

霧島連山の森

霧島連山の森

自然の中での暮らしなので、食べるものでも道具でも、出来るだけ自分たちで作れるものは想像力を働かせて作っていく事が出来ればいいな…と思っています。あと、ゴルフにたくさん行けるようになったことも嬉しいかな?(笑)」と大輔さん。

休日は家族みんなで大好きな温泉に出かけたり、お友達家族と一緒にお庭でBBQをしたり、楽しく過ごしているという新里さんご家族。「ここでは家でカラオケだって出来ますよ!音を気にしなくてもいいので!(笑)」と笑い合う新里さんご夫婦の笑顔がとても素敵で印象的だった。

新里さんのかごしま暮らしメモ

かごしま暮らし歴は?

6年

Iターンした年齢は?

大輔さん:38歳 久美子さん:40歳

かごしまに移住した理由は?

自分のルーツに戻り、子供たちに故郷を作ってあげたいと思ったこと。

鹿児島や霧島市の好きなところ

大輔さん:食・健康・歴史 久美子さん:食・温泉・自然

かごしま暮らしを考えている人へひと言
大輔さん:移住するには仕事の面でもハードルが高いと思うけれど、逆に言えば地方は常に人材不足。都会の様に人に溢れていないので、一人一人に与えられるチャンスはたくさんあります。

都会の様に大勢の中で埋もれるのではなく、自分の好きな分野だったり、輝ける場所がある確率はすごく高い。勇気はいるけど一歩踏み出して自分の能力や好きなことにチャレンジすれば切り開けるものが必ずあります!

中津川小学校では一年間単位で移り住み、学校に通いながら、さまざまな体験を積むことができる山村留学も行なっているので、ぜひ一度お問い合わせください!

 

 

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