プロローグ
「鹿児島は東京で味わっていたものとは、ひと味違う自転車の楽しみ方があると感じています。いろんな乗り方・遊び方を発信できたらいいなと思っています。もっと気軽に、日常的に自転車に乗る人が増えてほしい」と話す仁禮さん。移住して感じた、鹿児島×自転車のさらなる可能性とは?
インタビュー:瀬戸口奈央 撮影:高比良有城 取材日2020年10月
通勤も週末のロングツーリングも楽しめる一台を
「VOLCANIC CYCLE」で扱うスポーツバイクは、毎日の通勤に使える実用性と、休日のロングツーリングにも対応する走りの良さを併せ持つモデルが多い。
「鹿児島のまちをみていると、通勤・通学、生活の道具として乗る、いわゆるママチャリか、サイクルジャージを着て、本格的にやってい人のロードバイクと、自転車が二極化している印象を受けました。でも、そのちょうど真ん中にある、もっとラフで、走りが良くて、楽しみが広がる自転車があることを知ってもらえたらいいなと思います。スポーツバイクだからって気負わず、普段着で乗れるバイクです」
例えば、日常使いならロードバイクほどのスピードは必要ないので、サドルとハンドルのセッティングは、やや穏やかな前傾姿勢に。また、街乗りであれば、フレームは軽さ重視のカーボン素材もいいけれど、より衝撃の吸収に優れた鉄なら、少し荒れた道を走っても快適。長時間のツーリングになれば、体への負担の差は大きくなる。
「実際走ってみると、ひと漕ぎのスピード感は気持ちいいし、長く走っても体が楽だなと感じてもらえると思います」
鹿児島を満喫する 自転車×キャンプ
仁禮さんが、いま鹿児島でお勧めしたいツーリングの楽しみ方は、1泊キャンプ付きのロングツーリング。
「一度、この店のあたりから最南端の佐多岬まで行ったんですよ。坂がきついとこもありましたけど、自分のペースでのんびり景色を眺めながら走りました。お昼は美味しい海鮮丼のお店を見つけて立ち寄って、夜はキャンプ場に着くまでに買い出しをして、キャンプ場でご飯を作って食べました。テントで1泊して、次の朝出発して、目的地を目指したんですが、すごく楽しくて、充実したツーリングでした。1泊分の荷物なら、自転車に装着できるバッグ1つで十分。重さもほとんど感じませんよ」
登ったり、降りたり、曲がったり。地形の特徴を全身で体感しながら、自然の豊かさ、食の豊かさも満喫する旅路。鹿児島の魅力を改めて発掘する、新たなツーリングのかたち、アウトドアの楽しみ方の1つとして提案していきたい、と語る仁禮さん。
「気の合う仲間と行けば、楽しみももっと広がりますからね。そういうツーリングに興味を持っているお客さんも増えてきたので、ぜひ企画して一緒に行きたいと思っています」
自転車が親子のコミュニケーションツールに
店では、子ども用のスポーツバイク、ランバイクも取り扱う。
「三輪車や補助輪付きの自転車で練習するより、ペダルがなく、蹴って進むランバイクでバランス感覚を養っておくと、スムーズに自転車にも乗れるようになります。うちの子どもたちも2、3歳からスイスイ乗ってましたよ」と仁禮さん。
子どもが自転車に乗れるようになるタイミングで、自転車にハマる親御さんも多いという。
「今はスマホでいろんなことができて、おもしろいゲームがたくさんあって、そういう遊びに偏りがちです。だからこそ、自転車が外に出るきっかけになったらいいなと思います。鹿児島はわりと住宅地にのびのびとした公園もあるので、すごくいい環境ですよね。自転車は、親子のコミュニケーションツールにもなると思うんです。自転車があるだけで、“一緒に出かけようか”と、お互いに誘うきっかけになるし、家族みんなで楽しめます。親子で自転車を買いにきて、子どもの自転車よりも、お父さんが自分の自転車選びの方が真剣になってたりするんですよね。それもうれしいなと思います」
長く、大切に付き合う、自分だけの相棒
仁禮さんが提案するスポーツバイクは、その人のライフスタイルや望む乗り方に応じて、アクセサリーを加えたり、パーツを選んだりしながら、自分らしくカスタマイズできることも、魅力のひとつ。
「通勤で使うなら、かごもスタンドも付けられますし、キャンプに行くなら荷物を積むバッグもあります。ゴツゴツとしたハードな道も走ってみたくなったら、タイヤを変えればいい。そうやって少しずつ自分好みに仕上げていくことができます。また、いまは使い捨ての時代ではないと思うんです。手入れをしながら、長く、大切に乗ってもらえる一台を提案したいという思いもあります。みんな長く付き合うほどに、どんどん愛着が湧いて、自分の相棒のような存在になっていくんです」
“相棒”という言葉に、仁禮さんの自転車に対する愛情が感じられる。
日常使いにも休日の趣味にも寄り添ってくれる一台だからこそ、いつでも、どこへ行くにも、一番身近な存在になり、思い出も増えていく。自転車を通して、手をかけながら、ものを大切に扱う文化、そして長く付き合ってこそ味わえる愛着や喜びも、伝えていきたい大切なメッセージだ。
鹿児島の暮らしにフィットする店づくり
「VOLVANIC CYCLE」という屋号は、この鹿児島の地で始めた自転車屋という意味を込めて名付けた。桜島は知っていたが、新燃岳に硫黄島と、火山系の山々がこれほど身近にあるとは、移住するまで知らなかったという。
「正直、桜島から大きな噴煙があがっているのに、全く動じない地元の人々を見て、カルチャーショックを受けましたよ」と笑う。
鹿児島を自転車で走ってみて、厳しい暑さや降灰など、自転車にとって過酷な状況があることも実感したそう。
「晴れて気持ちのいい日があったら通勤に使ってみようかなとか、休みの日に車じゃなくて自転車で出かけてみようかなとか。そういう気軽なノリでもいいのかなと思っています。鹿児島で、一人でも“自転車っていいな、おもしろそうだな”と、思ってくれる人が増えるようなお店づくりをしていきたい。
自転車が多く走っていたり、人がまちを歩いていたり。通りを行き交う人が増えると、まちが活気付いて見えるんですよね。僕はそういうまちが好きです」
これからも、鹿児島に暮らし、鹿児島のまちを自転車で走りながら、鹿児島の人々にフィットする新しい自転車の付き合い方を、模索し、発信し続ける。
仁禮さん かごしま暮らしメモ
かごしま暮らし歴は?
3年目です。
Iターンした年齢は?
41歳
暮らしている地域の好きなところ
人があたたかくて、食べ物がおいしい。自然も豊かで、ツーリングで出会う景色はすばらしいこと。
かごしま暮らしを考える同世代へひとこと!
最初は不安でいっぱいでしたが、鹿児島で暮らしながらまちの魅力を知ったことで、自分のやりたいことを見つけることができました。動くことで、開ける道がきっとあります。