伊原 亮(いはら りょう)

かごしまに関係するヒト。no.2

投稿日:2020年11月12日 更新日:

伊原 亮(いはら りょう)

鹿児島市出身。太陽企画株式会社 クリエイティブディレクター。
2018 年、日本最大の広告賞・ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS クリエイティブイノベーション部門にて最優秀賞であるグランプリ/総務大臣賞を受賞。鹿児島では mark MEIZAN でのワークショップ開催や鹿児島銀行本店ビル「よかど鹿児島」エントランスの空間映像を担当。鹿児島市によるクリエイティブ産業の振興をテーマとしたイベント「鹿児島×渋谷 クリエイティブ・シンポジオン」にも鹿児島出身のクリエイターとして選出されている。

鹿児島大学を卒業後、福岡での靴メーカー勤務を経て映像制作の道へと進んだ伊原亮さん。
現在は東京で年間300本以上のTVCMやPV/CG/大型展示映像を制作する太陽企画株式会社に所属し、業界の最前線で活躍されています。そんな伊原さんに、鹿児島との関りと、鹿児島のクリエイティブ産業への想いをお聞きしました。

伊原 亮(いはら りょう)

かごしま暮らし:伊原さんは鹿児島のクリエイティブ産業創出拠点である mark MEIZAN に地元出身のクリエイターとして関わったと聞いています。きっかけは何だったのでしょうか?

伊原:ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS でグランプリを獲ったことがきっかけでした。受賞を南日本新聞で紹介して頂き、それをたまたま目にした鹿児島市役所の産業創出課の方からmark MEIZANの運営に関してアドバイスをもらえないかと連絡を頂きました。

かごしま暮らし:当初、mark MEIZAN にはどんな印象を持たれましたか?

伊原:オープン当初から情報は追いかけていて、まず鹿児島にこういう行政主導でクリエイティブ産業を盛り上げていこうという施設ができたことがとても嬉しかったです。地元のクリエイティブ産業に何かしら関わりたいという気持ちは前々からあって、ちょうどそんなタイミングに連絡を頂きました。

かごしま暮らし:mark MEIZAN の運営に関してどのようなアドバイスを?

伊原:mark MEIZAN は、シェアオフィスとしてスタートアップ企業が入っています。居住者同士が交流し、新しいビジネスが生まれる事を期待されている施設。その「交流」という部分をいかに生み出すかに課題があるとのことでした。自分も東京ではYahoo!LODGEやweworkといったコワーキングスペースを利用していたので、そこで目にしていた利用者を結びつけるための仕掛け、例えば共有スペースにフリードリンクやお菓子が用意してあったり、卓球台があったり、求人/求職の付箋が張られてたり、そういった部分をお話しさせて頂きました。また、自分も今「TAIYOKIKAKU R&D 」という新たなビジネス創出を目的とした部署にいて、ビジネスをどう生み出していくかという経験談であったり、そこで得たヒントをお話ししました。

かごしま暮らし:伊原さんは日本最大の広告賞ACCでのグランプリ受賞や、最先端の技術を使用したコンテンツ制作、海外の展示会(SXSW・ArsElectoronica)出展など業界の第一線で活躍されていますが、鹿児島のクリエイティブ産業についてはどのように感じていますか?

伊原:鹿児島は今こうして行政がクリエイティブ産業を活性化させようとmark MEIZAN が開設されましたが、mark MEIZANができた背景には鹿児島が抱える課題があって。農業/漁業/畜産業の出荷額は全国で上位にある一方、商品付加価値率(前述の商品にどれだけ付加価値をつけられたかを指数化したもの)は全国で最下位に近い方なのだそうです。素材としてはいいものを持っているのに付加価値を付けられていない。つまり農業/漁業/畜産業をブランディングする、PRする、食品開発をする、といった部分を担当するクリエイターが少ないということ。そういった部分で活躍できるクリエイターを育てるというのもMark MEIZANの目的なのだそうです。その話を聞いたとき、15 年前に自分が鹿児島大学を卒業後福岡で働きながら映像の道を志し始めた頃のことを思い出しました。

当時デジタルハリウッド(社会人向けのプロ養成クリエイティブスクール)でスキルを身に付け鹿児島での就職先を探したんですが、CGを使った映像制作会社はリクルートサイトで1社しか見つからなかった。地元で就職する難しさを知り、かなり落胆しました。

そんな当時の自分の想いと、行政が今抱えている地元のクリエイター不足の問題がリンクして、自分が15年間やってきたクリエイティブというものを還元していけないかと考えるようになりました。

鹿児島×渋谷 クリエイティブ・シンポジオンにて

鹿児島×渋谷 クリエイティブ・シンポジオンにて

かごしま暮らし:mark MEIZAN ではワークショップもされたそうですが、どのような内容でされたんですか?

伊原:ワークショップは2回開催させて頂きました。
一つは「1 億総クリエイター時代の価値の作り方」という、たいそうなタイトルですが、今は SNS などで誰でも発信していける時代。映像に関して言うと、プロとアマの境界はほとんど無くなってきています。そういう中で発信の重要性、自分のスキルや自分の作品をいかに売り込んでいくかということ
をお話しさせて頂きました。自分自身もただ作って終わりではなく、それをどうPRしていくかまで考えることを大事にしています。

2回目のワークショップは、産学官交えての街づくりについての意見交換会。
街づくりの活動をしている友人の県議員や高校の先生に声をかけて開催しました。街づくりや地域活性を考える上でそれぞれがバラバラの方向を向いていたら効率が悪い。なので産学官という違う立場の人間が交流し、お互いの考えを知ることで、新しい気づきがあったり、化学反応が起きる事を期待して。

2つのワークショップを通じてmark MEIZANを知るきっかけ、クリエイティブという業種を知るきっかけ、またクリエイティブや街づくりに興味のある方同士が知り合うきっかけ作りができたらと思い開催しました。

かごしま暮らし:伊原さんは、鹿児島銀行本店ビル「よかど鹿児島」のプロジェクションマッピングなど空間映像も担当されましたが、こちらはどんな想いで手掛けられましたか?

伊原:よかど鹿児島のエントランス空間には「大樹」というコンセプトがあって、天井のプロジェクションマッピングでは四季を表現しています。でもただ四季を表現するだけではなくて、このビル自体が南九州の特産品や食が楽しめる場所なので、天井の映像にも鹿児島の伝統工芸品を取り入れ、来館者に鹿児島の魅力をPRし、感じ取って頂けるものを意図しています。大画面に映される時報にも、鹿児島の特産品や観光地、伝統工芸品といったものをふんだんに盛り込んでいます。

時報の音楽は鹿児島出身のタブゾンビさん(SOIL&"PIMP"SESSIONS)にお願いし、楽曲を聞くとよかどの時報を思い出すような、老若男女に耳馴染みの良いものに仕上げて頂きました。コロナ禍での制作でしたが東京と鹿児島、遠隔で仕上げ、連携が取れたいいチームだったと思います。

伊原さんが手掛けたよかど鹿児島エントランス大画面の時報映像と天井のプロジェクションマッピング映像。鹿児島の魅力が詰まった、夢を感じさせる演出だ。

伊原さんが手掛けたよかど鹿児島エントランス大画面の時報映像と天井のプロジェクションマッピング映像。鹿児島の魅力が詰まった、夢を感じさせる演出だ。

かごしま暮らし:かごしまのクリエイティブ産業に今後どのようなことを望みますか?

伊原:クリエイティブも地産地消であってほしいと思っています。なので、先ほどの付加価値率が低いという鹿児島が抱える課題を地元のクリエイターで解決できる土壌ができたらと。鹿児島ではまだ、大きい予算の仕事があっても、そのボリュームを回せるだけのチーム編成が難しい。そういう人材、チーム編成ができるようになったら鹿児島のクリエイティブの奥行はさらに深くなるのではないかと思います。そもそも鹿児島の子どもたちや若い人たちが、あまりクリエイティブな業種に触れる機会が少ないようにも感じるので、そういった場所や機会も増えたらいいなと思います。 そういう機会の提供もmark MEIZAN の大事な役割の1つではないかと思います。

また、自分のなかでの大きい目標としては、地元をクリエイティブで活性化させたいという想いもあります。観光プロモーションや、商品に付加価値を付けてPRしたりとか、しっかり成果を出して地元に貢献したい。そして若い人たちがクリエイティブ職を目指すきっかけを作り鹿児島にクリエイターを増やしたいです。

mark MEIZANでのワークショップやよかど鹿児島の空間映像は、「地元をクリエイティブで活性化させたい」という想いをかたちにしたものなんですね。ほかに感じていることはありますか?

伊原:あと、創ったものを自分で広める、売り込むという意識も大事にしてほしいなと思います。幻冬舎の編集者、箕輪厚介さんが著書で「自分の名前を刻むまでがプロジェクト」とおっしゃっていて、それは本当にそうだなと。先ほどの「1億総クリエイター時代の価値の作り方」の話にもつながりますが、やっぱり今は、自分で作ったものを発信して、自分で価値を創造していかないと生き残っていけない時代になっている。また制作したものをPRまでしっかりするというのは予算を出して頂いたクライアントに対しても誠実な姿だと思っています。

伊原 亮(いはら りょう)

かごしま暮らし:伊原さんは現在に至るまで、プログラミングやクリエイティブディレクションの勉強などつねにスキルアップを図っていたり、SXSW(米テキサス州オースティンで開催さるテクノロジーの祭典)で高い評価を受けた「HOLOBUILDER」など、手掛けるものに対してはとにかく 1 ミリでも面白いものを!と情熱を注いだりされています。その熱意はどこから来るのでしょうか?

伊原:まずスキルアップに関して言うと自分は面白そうなことに常に挑戦していたいので足りないスキルを補充する必要がありました。自分の中ではプログラミングとクリエイティブディレクションを学んだことはその後の活動で大きな転機になりました。これは学習補助制度を提供して頂いた現職場にとても感謝しています。

そして面白さを追求するという点では福岡の映像制作会社勤務時の先輩たちの影響が強いのではないかと思います。

福岡は東京に比べると予算は少ないけど制作時間は同じ。そのまま勝負したのでは東京に負けてしまう。限られた予算や時間の条件をひっくり返すための武器がアイディアやスキル。そこを磨いて、どんなものでも絶対面白いものを作る、爪痕を残す、という気概を学ばせて頂いたと思います。東京、世界と勝負するために新しい表現とかアイディアをインプットしておく、そんな考え方が福岡で染みついたんだと思います。あと単純に面白いものを作ったときに周りが喜んでくれる、そういう評価は何ものにも代えがたい喜びがあります。

かごしま暮らし:なるほど、地方ということを言い訳にしない。鹿児島のクリエイティブ産業も、そういう意味ではやりがいを見いだせる環境、まだまだ伸びしろのある環境と言えますね。現在は、何か新しく取り組んでいることはありますか?

伊原:個人的には、これからの時代、SNSは外せないと思うのでどういう動画の需要があるか研究しています。特に短尺動画の需要が高まるのではと考えており、その分野のニーズを実験・模索しています。
自分だけの価値という事を突き詰めていくと、どれだけ表現の方法を持っているか、その掛け算が最終的にオンリーワンになる。自分で言えば、映像、デザイン、インタラクティブ、クリエイティブディレクション、そして地元の「地域活性」も大事な柱。守備範囲の広さもクリエイターの強みではないかなと思います。

色んなクライアントと接すると色んな課題があります。その時に自分の得意なものだけを押し付けるのではなく課題解決の為の最適なアウトプットを提案したいし、また求められているアウトプットがそもそも課題解決になっていない場合は協議して別の方向性を示せる能力は持ちたいと考えています。

今の時代、YouTubeでもいろんなスキルやアイディアが手に入る。逆に言うと、みんなが手にしやすくなった分、自分だけの価値というものを作りにくくなっているとも感じます。変化を先読みして新しい分野に挑戦し、足りないスキルを吸収する。関わる人たちが面白いと思えるものに携わっていきたい。

今関わらせて頂いているお仕事もそれぞれ面白い部分はありますが、地元のクリエイティブに関わって盛り上げていくという事は、20年住んでいた愛着もあるので違う意味合いでのやりがいや可能性、面白さを感じています。

伊原 亮(いはら りょう)

よかど鹿児島・エントランスにて

インタビュー・テキスト:奥脇真由美 
写真:藤村朗生 
取材:2020年10月

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