鹿児島市に住む安川あかねさん

西郷どんになりたい! 20歳で見つけた人生の お手本を追いかけて<後編>

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神奈川県横須賀市出身の安川あかねさんは、20歳で西郷隆盛に傾倒し、27歳で鹿児島市へ単身移住。現在はホテルの営業企画部に勤務しながら、語り部として講演や紙芝居などで西郷さんの生涯を伝える活動を行っている。 

自身のライフワークである西郷隆盛の研究を通じて、人とつながり、地域に溶け込んできた安川さん。紙芝居はどのようにして生まれたのか。語り部として大切にしていることとは。そして、かごしま暮らしをより楽しむために誰もができることとは。好きなことを突き詰めた先に、自分らしい働き方と暮らしがあった。

コラム:里山 真紀 撮影:高比良 有城 2018年8月取材

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西郷さんの顔はめ

感謝の気持ちを託した紙芝居で、西郷さんの人となりを伝える

明治維新150周年を迎え、大河ドラマなどで注目を集めている鹿児島。「西郷さんを知ってもらい、鹿児島のファンが増えたらうれしい」と語る安川さんは、ホテルの営業企画部でイベントの企画や運営を担当している。

 ホテル館内の西郷さんに関する展示やオフィシャルウェブサイトの西郷どん特集などを手がけ、西郷さんの人となりや偉業について分かりやすく伝えたいと、自作の紙芝居も披露する。

西郷さんの生い立ち、奄美大島や沖之永良部島での生活、明治維新での活躍、そして城山での最期…。大島紬の着物姿の安川さんがテンポ良く読み進める紙芝居に、宿泊客らが見入っていた。

「紙芝居を最初に作ったのは、まだ横須賀に住んでいた頃です。半年に一度来ていた鹿児島で、ある小学校の校長先生と知り合ったのがきっかけでした。その校長先生も西郷さんのことをとても尊敬していて、校内に鹿児島の郷土史コーナーを設けていたんです。先生は私に“好きなだけここに来て、資料を見ていいよ”と言ってくださって。そこで、その小学校に何か恩返しがしたいと考えて、西郷さんの紙芝居を始めたんです」

出会った人たち、ホテルでの仕事は、すべて西郷さんがくれたご縁だと語る安川さん。子供たちのためにと20代で作り始めた紙芝居は、これからもずっと続けていくつもりだ。

自分なりの西郷像を語り継いでいくために

西郷さんについて学びたいと、鹿児島に来て早15年。いつの間にか自身が語り部になっていた。かつては鹿児島の人が西郷さんを語れないことに危機感を抱いていたが、近年はもう一度西郷さんについて学び直そうとする機運の高まりを実感しているという。

幕末の英雄として絶大な人気を誇りながら、知られざる部分も多い西郷さん。「世界でもナポレオンやリンカーンに次いで書籍が多い」と言われるほど多くの作家を惹きつけていることからも、学ぶべき点が多くある人物だということが分かるだろう。

「西郷さんってどんな人だったの?と聞かれた時に、鹿児島の一人ひとりが自分なりの西郷像を語れるようになってほしいと思います」 

語り部の一人として、心がけていることがある。自分なりの西郷像を決して押し付けないことだ。“こんなにすごい人だから、好きになってほしい”とは言わない。しかし、誠意を持って伝え続けることで、何らかの変化をもたらすことができるという希望を信じている。

ホテルに勤務するかたわら、企業や学校、自治会からの依頼で西郷さんに関する講演を行う機会も増えた。西郷さんを語る人間としてふさわしい存在でありたいと、自己研鑽も欠かさない。自宅には西郷さんに関連する書籍や資料が並ぶ“西郷部屋”があり、10歳になる娘さんも西郷さんが好きだという。

「子供だから分からないなんて思わずに、物心がつく前から西郷さんのことを語ったり、本を見せたり、イベントに連れて行ったりしていました」

プロフェッショナルな姿の向こう側に、母親としての優しい顔がふと垣間見えた。

 

移住者を受け入れ、共生する風土を実感

鹿児島市でキャリアと家庭を築き、このままここに骨を埋めるつもりだという安川さん。西郷さんに出会う以前はどちらかというと熱しやすく冷めやすいタイプで、一つのことに長く没頭することはなかったという。何が彼女の人生を大きく変えたのだろうか。

「西郷さんをずっと追い求めていれば、良い人生が送れると思ったというその一点に尽きます。私利私欲がなく、人のためになることを優先させるところとか、器が大きく、何もかもを包み込んでくれるような包容力と強い正義感があります。そんな人格に少しでも近づきたいという思いですね。自分がいい人生を送りたい、正しい道を歩きたい、そのために西郷さんが必要なんです」

 出会いから20年以上の時を経ても、西郷さんの本質はまだまだ掴みきれないという。しかし、だからこそ、学ぶ楽しさは尽きない。現在の西郷どんブームを一過性にすることなく、末永く西郷隆盛の存在を語り継いでいくことが自身の使命でもあると考えている。

縁もゆかりもなかった鹿児島市にしっかりと根ざした暮らしを送る安川さん。人と地域に積極的に関わってきたからこそ、今がある。

「鹿児島の人はよそから来た人を受け入れて、大切にしてくれます。せっかく移住するなら、いろいろなところへ出かけて、さまざまなコミュニティーと関わりを持った方が絶対に楽しくなります」

かつての安川さんのように偉人にまつわる史跡を旅してみたり、気になる人に会いに行くことから始めてみるのもいいだろう。心のドアを開けば、心地いい風がふわりと吹き込んでくるはずだ。

安川さんの鹿児島暮らしメモ

かごしま暮らし歴は?

16年です。

 U•I•Jターンした年齢は?

27歳の時でした。

 U•I•Jターンの決め手は?

 西郷さんが生まれ育った場所だったからです。

 暮らしている地域の好きなところ

 肩肘張らずに生活できるところです。

 かごしま暮らしを考える同世代へひとこと!

 鹿児島の人はよそから来た人を受け入れ、大切にしてくれます!

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