志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる 戸上博司さん

志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる(後編)

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プロローグ

鹿児島県志布志市での地域おこし協力隊を経て定住し、「シブシス合同会社」を設立した戸上博司さん。地元を支える第一次産業や教育現場へのICT活用を、未来を見据えさらに広げていこうとしています。後編では、戸上さんがGIGAスクールサポーターとして活動する伊﨑田小学校の山﨑誠校長にもお話をうかがい、これまでに築いてきた地域との関係や、戸上さんが感じるまちの魅力についてレポートします。

インタビュー:奥脇真由美 撮影:高比良有城 取材日2020年12月

GIGAスクールサポーターとして関わっている志布志市の伊﨑田小学校では、隣接する伊﨑田中学校と小中一貫型教育が行われている。戸上さんはここで小中学生に向け、MESHやScrach等プログラミングの実演ツールを使ったIoTの仕組みづくりなどの課外授業も行っている。

志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる 戸上博司さん

伊﨑田小・伊﨑田中の校舎をつなぐ多目的ルームにて、課外授業をおこなう戸上さん

IoT機器を使った野菜の育成に挑戦

案内してくれたのは、学校の敷地内に設けられた小さなビニールハウス。中には白菜や水菜のプランターが並ぶ。
戸上さんがスマートフォンを操作すると、プランターの真上に設置されたホースから水がシャワー状に噴出。プランターには小さな機器が刺してあり、土の状態もスマートフォンで管理できるようになっている。ビニールハウス内に設置されたIPカメラの映像を携帯で見ることもできる。IoT機器を活用したスマート農業の実例を体験できる場所だ。

伊﨑田小学校のビニールハウスで機器のレクチャーをおこなう戸上さん

伊﨑田小学校のビニールハウスで機器のレクチャーをおこなう戸上さん

志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる 戸上博司さん

ビニールハウス内に設置したIPカメラの画像をスマートフォンで確認

志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる 戸上博司さん

植物育成ライトも設置。ライトありとライトなしで生育の比較実験もしている

伊﨑田小学校区は大部分が兼業農家。子どもたちにとって農畜産業は身近なものだ。また同校は「地域とともに子どもを育てる」というコミュニティ・スクールの役割も担っている。そこに戸上さんがICTのプロとして関わっていることについて、伊﨑田小学校の山﨑誠校長はこう話す。
「今は農業だけでなく様々な分野でスマート化が進んでいます。このような(ビニールハウスでのIoTを使った)実験を通して、子どもたちが『農業ってかっこいいな』とか農業に対して前向きなイメージを持って、やがては地場産業を担い背負えるような人材に育ってほしい。それが最終的にはSDGs、地域においても産業においても持続可能な社会というものにつながっていく。そんな壮大なロマンが私たちにはあります。」
いま日本を含め世界は2030年に向けてSDGsという目標を掲げ、エネルギーや環境問題、貧困対策といったものだけでなく、地方創生や地域分散などあらゆる側面から持続可能な社会を目指している。
「地域が持続可能でなければ人は集まらないし育たない。魅力ある地域のためには人を育てないといけない。そのために、学校としては子どもたちの能力を最大限に活かすということをやらないといけない。コミュニティ・スクールとして地域と連携してそのような人材育成を担うなかで、戸上さんのようにICTの専門的実務的技術を持ち、実際に必要とされるスキルや活用の方向性について示唆を与えてくださる存在は非常に有難く貴重です。」

志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる 戸上博司さん

伊﨑田小学校の山﨑誠校長。「2030年は子どもたちが成長してちょうど活躍する時代。そのときに能力を発揮できるような基礎、チャンス、経験を与えることが大人の責務なのかなと思います」。将来を担う子どもたちの重要な経験の一つとして、戸上さんの取り組みを歓迎する

志布志市へ移住して4年が過ぎ、地域に頼られ求められる存在となっている戸上さん。当の本人は「自分がやりたいことに(子どもたちを)付き合わせているだけ」と気さくな笑顔を見せる。

自分のペースで暮らせるまち

「初めて志布志を訪れたのは地域おこし協力隊の面接で来たとき。びっくりするくらいの田舎というのが正直な印象でした」
暮らし始めた頃は、深夜までビルや店舗の灯りがまちを賑わす都会とは違い、仕事を終えて岐路につく時間には街灯もまちの灯りも少なく外が真っ暗なことにも衝撃を受けたという。
そんな驚きの一方で
「都会に比べて時間の流れがゆっくりしているというのが魅力。皆さんおおらかで、ちょっとした失敗にも寛大。自分のペースで仕事ができるので、自分はここでの生活が合っているんだと思います」
東京で暮らしていたころから主な通勤手段は自転車。東京ではいろんな店に立ち寄るのが楽しみだったというが、ここではペダルを漕ぎながら田園風景を楽しんだり、志布志やその周辺の自然を満喫したりしている。
地元でお気に入りの場所を尋ねると「夏井海岸の静かな入り江」「小さな湧き水の池」「旧志布志市役所本庁の裏山」など穴場的なスポットが次々と挙がり、移住5年目にしてなかなかの地元力を感じさせる戸上さん。「蓬の郷(よもぎのさと)」という温泉施設も毎週通うほどお気に入りだそうで、
「ここ(蓬の郷)に隣接する池で水草を採取して観賞用の水槽に入れたのですがヤゴの卵が混入していて、そのまま育ってトンボの成虫になったことがありました」

とのエピソードも。地元の自然が醸す空気や景色だけでなく、そこに生きる小さな命の営みにも心のピントを合わせられる感性。そんな戸上さんの人柄も、志布志という環境にマッチしたのかもしれない。

志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる 戸上博司さん

夏井海岸の静かな入り江

志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる 戸上博司さん

小さな湧き水の池。きれいな藻が繁殖し、たくさんのエビも生息しているという

志布志市で、地域に寄り添いICTのすそ野を広げる 戸上博司さん

蓬の郷に隣接する池で採取した水草にいたヤゴから成虫になったトンボ

地方に見出すICT活用の可能性

シブシス合同会社の事業としては今のところ農畜産業のIPカメラ導入がメインだが、今後はそれに付随するIoT機器の導入も進めていきたいと考えている戸上さん。その一環として、現在宮崎県の都城市や都城高専と共同で牛のスタンチョン(牛の頚部を挟んで安定させるつなぎ止め具)のIoT化に取り組んでいる。
スタンチョンは、牛が餌を食べるとき、ほかの牛の餌まで食べてしまわないように首を固定し動きを制限させるもの。餌やり後はスタンチョンを開放するため再び牛舎へ行かなければならないが,それがIoT化によって遠隔操作できれば農家の負担を減らすことができる。

新たなチャレンジに取り組む戸上さんに、かごしま暮らしの今後のビジョンを尋ねてみると
「いま事務所を作っているところで、まだしばらくはここにいます」
どうやらこれからこの地での活動に本腰を入れる様子。戸上さんの頭の中では、「ICT×一次産業」「ICT×教育」といったフィールドで実現したいアイデアが、今なお生まれているのだろう。

仁禮さん かごしま暮らしメモ

かごしま暮らし歴は?

5年目

Iターンした年齢は?

45歳

U•I•Jターンの決め手は?

自分のスキルが活かせる仕事があり、暖かい気候だったこと

志布志市の好きなところ

緑豊かで海もあり、自然が多いのは一番の魅力。特にお気に入りの場所は、夏井海岸の小さな入り江、蓬の郷(よもぎのさと/温泉施設)、小さな湧き水の池、旧志布志市役所本庁裏山からの景色。

かごしま暮らしを考える同世代へひとこと!

移住を考える方は、何か一つ、手に職だったり自分の長所を発揮できるようなものを持っていると、より地域に根付けるのではないかと思います。特にITや英語のスキルはこれからの時代、地方に求められていると感じます。

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