移住者インタビュー(奄美)島崎仁志さん

繋いでいきたい“結の心” (後編) 

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プロローグ

学生時代からの夢だった、自身のオリジナルブランドを東京で立ち上げ、家族を連れて奄美大島にUターンした島崎仁志さん。“自分の好きなことや得意とすることで生まれ育った島への恩返しができる”と話す島崎さんの周りにはいつも沢山の仲間が集う。

温暖な気候に負けず、人の心も暖かい奄美大島で子育てや様々なイベント活動に奮闘中の島崎さんの今を覗いた。
インタビュー:満崎千鶴 撮影:高比良有城 取材日2018年11月

良好なスタート

“自然が近いところで子育てをしたい”という強い想いがあり、島へ戻ってきた島崎さんご家族。都会での生活とは一変し、いよいよ離島生活は始まった。

島崎さんがUターンした2014年は、奄美大島と東京を結ぶバニラエアの就航が始まり、関東から訪れる観光客が急激に増え始めた時期だった。「ブランド立ち上げてからずっと突っ走ってきたので売れる売れないよりも、自分の好きなことをしようと思った。」と話す島崎さん。

島に戻ってからしばらくの間は、ウェブ販売がメインになるだろうと予想していたというが、全ての工程を手作業で行い、機械では決して作り出すことが出来ない奄美大島の伝統工芸「泥染め」に価値と魅力を感じてくれた観光客の方々が買って行ってくれることも多く、全てがうまく回ったと当時を振り返る。

“泥染めの魅力をどうやって伝えるか…”を常にテーマしているという島崎さんは、ブランドムービーを作り、写真だけでは伝えきれない泥染めの素晴らしさを発信している。

島崎仁志さん

「ブランドムービーを作ることで爆発的な反響があった訳ではないけれど、徐々にお客さんが増えていったという感触です。一度買ってくれたお客さんがリピーターになってくれたり、取引先の方が奄美大島に来られた時、肥後染色さんに立ち寄り実際の泥染め体験をすることで接客に活かしてくれるという流れもできてきて、本当に感謝しています。」と話す。

こうして良好なスタートを切ることが出来た「GUNACRIB (グナクリブ) 」には毎日、たくさんのお客さんが訪れている。

地域で育む、島の子育て

店舗を構えていることで、地域の人たちともコミュニケーションが取りやすく充実した日々を過ごしているという島崎さんだが、初めて島の生活を経験する奥様にとって、最初は人間関係の近さや見たこともない生き物に驚く毎日だったそうだ。

「東京では3~4年暮らしていたマンションでも隣に暮らす人の顔を知らないというのが当たり前だけど、島ではコンビニに行っても誰かに会うし、その繋がりがとにかく凄い。決して狭い島ではないけれど、友人や地域の人たちとみんなで子育てしているような感覚です。みんなが見守ってくれているので安心感があって居心地がいいですね。島はインターネットより情報の拡散が早いので」と笑う。

島崎仁志さん

友達の子供が迷子になったことがあり、島崎さんも慌てた経験があるというが、“あそこで見かけたよ”という近所の人たちの口コミですぐに見つけることが出来たそうだ。

都会では“煩わしい”とされる人と人との関わりも、島はそれが日常であり、“煩わしさが心地よい”と話す島崎さんは、「理想通りの子育てにとても満足しています」と話してくれた。

島の自然と文化を伝えたい「結ノ島CAMP」

大自然に囲まれた町、住用町で生まれた島崎さんは、お父様が林業を営んでいたこともあり、生後1年ほどの頃から、お父様が山に作った掘っ建て小屋を保育所変わりのように遊んでいたという根っからの山ボーイ。

現在もキャンプやクライミング、素潜りなどのアウトドアを趣味にするのは、幼い頃のそんな経験が確実に影響しているという。そんな島崎さんが地元へ戻った翌年、たくさんの友人や仲間たちの協力を得て立ち上げたイベントが、奄美大島初のキャンプフェスティバル「結ノ島CAMP」だ。

これは、奄美大島の豊かな自然と文化を、多くの方に知ってもらいたいという島崎さんの願いから始まった、日本で一番早いCAMPイベント。5年目となる今年(2019年)も3月2日〜3日にかけて開催される。

“結(ゆい)”とは「結束し協力しあう」という島の言葉であり、1泊2日のキャンプを通して、島内・島外さまざまな場所から集まった参加者全員がコミュニケーションを図りながら、“結のこころ”を共有し、1つのシマ(集落)のような隔たりのない関係を築くことを目的としたイベントで、クラフトワークショップの出店やモノづくりをする個人商店、夕方からは琉球松を使った灯篭のライトアップや、シマウタLIVEも行われる。

三線を奏でながら唄い踊る島唄もまた大切な島の文化

三線を奏でながら唄い踊る島唄もまた大切な島の文化

イベントまでの準備や当日の会場設営、運営に至るまで実行委員となるのは全て島崎さんをよく知る友人ばかり。「オシャレなキャンプイベントというより、一泊二日で島の良さを再認識してもらうことを目的としています。他所からやってきた人たちが島の人と触れ合い島を好きになって帰っていく。このイベントで出会い、始まった交流はキャンプが終わってからも続いています。会場の装飾も鹿児島から友人が手伝いに来てくれて、会場内にいっぱいキャンドルを灯してくれました。そんな幻想的で美しい空間は島の人もみたことないのでとても喜んでくれています。

本当に人と人との繋がりや助け合いの心で成り立っているイベントですね。当日まではとても忙しく大変なこともあるけれど、そんな中で生まれる“結の心”も大切にしていきたい。」と島崎さん。

「島に暮らしながらミュージシャンとして活躍を続ける先輩、カサリンチュのお二人に、結ノ島CAMPに出演してくれないかとお願いしたところ、気持ちよくオッケーしてくれて当日は会場を最高に盛り上げてくれました。本当に感謝しています。

島内で行われるカサリンチュのイベントでは、逆に自分が実行委員として参加させてもらっていますが、会場の装飾をお願い出来ないか…と声かけして頂いた時は二つ返事でオッケーしました。

流木を使った装飾をする島崎さ ん

カサリンチュのライブ会場に流木を使った装飾をする島崎さんとてもお世話になっている先輩なので、自分が得意とすることで大切な人たちに恩返しが出来るのならば最高に幸せです。」と語る。

カサリンチュのお二人

カサリンチュのお二人

島崎さんが慕う島の先輩、カサリンチュのお二人

損得考えず全力で力を貸し合う島の仲間たちとの間には、揺るぎない結の心が育まれている。

誇れる島、奄美

奄美大島へUターンして5年、これまでの自身の経験を振り返り、島で生活する若者たちへ向けて島崎さんはこう語る。「人それぞれの期間でいいから一度は島を出た方がいい。ずっと島で暮らしているとその暮らしが当たり前に感じるけれど、外に出ることで島の良さや価値を感じることができるから。 “自分が生まれ育った奄美大島は最高の島だ”とそう思える気持ちになる。煩わしさも温かさだと、感じることがきっとできるから。」

島崎さん

奄美大島は、海もあって山もあって川もある。生活するにも何も困らない日本を凝縮したような素晴らしい島であり、アウトドアの宝庫だと語る島崎さん。奄美の伝統工芸“泥染め”をもっと色んな人に触れてもられるよう、これからも商品作りをしていきたいと笑顔で話してくれた。

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