ここで必要とされる、歯車のひとつになりたい(後編)

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プロローグ

フランスから悪石島への移住計画。2022年1月、無事にフランスを出国できたものの、その頃の日本は新型コロナ第6波の真っ只中だった。「羽田空港で4、5時間ほど足止め。そのあと1週間はホテルでの隔離生活。それは大変で…すごく記憶に残っています。そんな中、十島村役場の方もすごく心配してくれて、密に連絡を取り合っていました。そのおかげもあって、悪石島に無事に来られ、寮もスムーズにスタートすることができました」こうして始まった悪石島での新しい生活。移住者として、母親として、また、小中学校の山海留学生を預かる寮監として。日々感じていること、そしてこれからの暮らしへの思いを伺った。

インタビュー:瀬戸口奈央 撮影:高比良有城 取材日:2023年

悪石島には野生の山羊が生息している

島内最高峰の御岳(584m)

親元を離れて暮らす子どもたちに寄り添う

現在、寮で暮らしている山海留学生の生徒は6人。志穂さんの娘2人を合わせ、8人分の子どもたちの身の回りのことをこなす毎日。

「寮監の仕事は、炊事や洗濯だけでなく、一番大事なこととして時間をかけているのが、子どもたちとの対話、寄り添うことです。とてもエネルギーのいる仕事ではありますが、すごくおもしろい部分でもあると思う。子どもたちを育てること、しかも自分が産んでいない子どもたちを、1年、2年、3年と預かる。親御さんや学校の先生方とも密に連絡を取りながら、その子にとっての良い道を毎日探しています。大変ではありますが、やりがいを感じる仕事です」

みんなが集まる学生寮のリビング。寮生と志穂さんの娘2人も一緒に机を並べて勉強したり読書をしたり

長期休暇は家族との時間で頭もリセット

もちろん、一緒に生活をするわけなので、寮監の仕事に“休日”は、ほぼ無い。ですが、夏休みや冬休みといった学校の長期休暇には、寮生たちが親元へ帰省するため、寮監の仕事も長期休暇がもらえる。そのときは、まず家族4人で過ごせる時間を大切にすると決めている。

「特に口には出さないけれど、やっぱり娘2人にとっては今まで姉妹だけだったのが、いきなりお兄ちゃんたちが6人も増えて、私たちと過ごす時間も減ったように感じているだろうし、いろいろと思うことはあると思うんです。だからこそ、家族4人のときには一緒に過ごす時間を第一に考えたい。あとは、朝から夜までずっと仕事脳なので、いったんリセットして、仕事モードを抜け出すことですね。今度のお休みはみんなで何をしようか、とよく家族で話しています」

家族のおでかけに欠かせない、ブノワさんの愛車

島の習慣や文化にも “自然体”で飛び込む

悪石島では「悪石島のボゼ」として、2019年、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されている仮面神・ボゼなどの神々が島内各所に祀られている。うっそうと茂った亜熱帯性の植物群も大切に守られ、「神山」として聖地の扱いを受けているという。

仮面神・ボゼの仮面。毎年旧暦7月16日に行われる「ボゼ祭り」は、霊や村人の邪気を払うという伝統行事

ジャングルのように亜熱帯性の植物が生い茂る自然遊歩道

八幡宮のご神木。神様が洗濯物を干すと伝わる松の木

伝統的な文化や歴史、自然・生活習慣も含め、もちろん初めて見るもの・触れることばかり。「知らないことを隠したってしょうがないし、分からない。いろんなことに対して、これは何?なぜ?どうして?と思うタイプなので、その場で素直に聞いています。いまの島内放送の意味は?とか、生ゴミの処理って…?とか。そんな生活の細々としたことでも、学校のことでも、何でも。答えを持っている人が必ずまわりにいるので。
そうすると、みなさん親身になって教えてくれます」

背伸びをしたり、肩肘張らずに、素直に“自然体”で飛び込んでいくこと。この姿勢こそが、志穂さんたち家族がこの移住生活を心地いいと感じられている秘訣なのかもしれない。

 

定期船が港に着いたら、協力して荷物の仕分け作業をする

日本の学校のほうが楽しい!

実は、移住して間もない頃、長女の美冬ちゃんはフランスへ帰りたいと泣いていたこともあったそう。

「2年生の3月の転入だったのですが、最初は日本語も分からないし、ひらがなが少し書けるぐらいだったので学校はちょっと大変そうでした。でも、子どもって大人よりずっとしなやかで強いんです!まだ6ヶ月ぐらいなのにもう日本語をペラペラ話し、担任の先生にツッコミを入れたりするぐらい、すごく馴染んできました。今では、日本の学校の方が楽しい、というぐらい気に入っているみたいです。それは、悪石島の方々、学校の先生方が子どもたちを見守ってくれているし、大切にしてくれているからこそ。あらためて人との出会いが人生において一番大切なんだ、と実感しています」

悪石島小中学校に通う、長女の美冬ちゃん

まだまだ始まったばかり

自分たちの生き方を見つめ直し、この悪石島へ来て半年ほど過ぎた。

「本当にいろんな方に助けられて暮らしています。寮監という仕事をしているし、ブノワも通船作業に行ったり、草刈りをしたり…この島で求められている仕事はしているけれど、まだまだ島の暮らしを回すほどの役割にはなれない。私たちがこの島に来た理由のひとつにもありましたが、少しずつ、この悪石島の一員として、島の暮らしの歯車のひとつになっていきたいです」

そう語る志穂さんの笑顔は、包み込むようにやわらかく、言葉には芯があり、自分たちで選んだこの暮らしへの充実感と期待に満ちているようだった。

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レニュエル志穂さんのかごしま暮らしメモ

かごしま暮らし歴は?

約6ヶ月

Iターンした年齢は?

38歳

悪石島にIターン移住した理由は?

自分たちの生き方を見つめ直して、環境を変え、小さなまちで暮らしたいと思ったから

悪石島の好きなところ

ゆったりとした生活リズム、気候の良さ。温泉も大好き

かごしま暮らしを考える同世代へひとこと!

私たちがそうでしたが、移住を考えるって、自分を見つめ直す良い機会になります。自分にとって、家族にとって、一番重要なもの、譲れないものは何か、じっくり時間をかけて見つめ直してほしいと思います。

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