南さつま市に住む神園一俊さん(前編)

鹿児島に藍染の文化を拓きたい(前編)

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プロローグ

明治時代、来日した英国人に「ジャパン・ブルー」と称された日本の藍色。そこには昔ながらの技法でしか表現できない美しさがあると言います。そんな“藍”の文化を継承し広げていくため、藍染師の神園一俊さんが呼ばれるように辿り着いた場所は、豊かな自然のなかに人々の暮らしが静かに息づく南さつま市金峰町(きんぽうちょう)でした。

インタビュー:奥脇真由美 撮影:高比良有城 取材日:2021年3月

南薩の霊峰・金峰山を望む山あいの集落。宮崎県都城市出身の神園一俊さんは、昨年2月にここ南さつま市金峰町で、藍染の工房とギャラリーのある「藍染屋」をオープンさせた。神園さんは、日本では数少なくなってしまった天然灰汁発酵建(てんねんあくはっこうだて)という伝統技法を継承する藍染師。365日藍と向き合い、天然の材料だけで作る伝統技法ならではの藍の魅力を守り、ここから発信している。

工房から望む金峰山

工房から望む金峰山

敷地内にある藍染のギャラリー

敷地内にある藍染のギャラリー

移住のきっかけ

若い頃は福岡で国鉄に勤務し、新幹線の車両検査や修理などの仕事をしていた。28歳の頃、母親が体調を崩して介護が必要となり都城へ帰郷。郷里で新たな職を探すこととなり、ものづくりに関わる仕事ができればと地元の織物会社に入社した。そこでは糸から布を作る織の仕事を経験する。洋服が好きで、当時自分で洋服を作ってみたいと考えていた神園さん。生地の染色にも興味が湧き、2年ほど経つと今度は宮崎県綾町の染織工房に転職した。
そこでは草木染や貝から紫の色素を取り出し染める貝紫の還元建染めなど様々な染色技術を経験。そのなかの一つが天然灰汁発酵建の藍染だった。

天然灰汁発酵建の藍染

天然灰汁発酵建の藍染

一方で、介護をしていた母親が8年前に他界。宮崎には身内が一人もいない状態となった。そこで親族が暮らしていた鹿児島への移住を決意。鹿児島には天然灰汁発酵建の伝統的な藍の文化がなかったことから、ここに藍の文化を拓きたいという想いも沸いた。当時54歳。

「歳をとって、(挑戦するなら)最後のチャンスだと思い、鹿児島に藍染の文化を拓きたいと移住を決めました」

藍染に最適な環境を求めて

鹿児島市内に移住した神園さん。藍染の文化をここに拓きたいという想いはあったが、工房を構える場所をまずは探さねばならなかった。
藍染をする環境として大事なのは、第一に天然水があること。神園さんがこだわる天然灰汁発酵建は江戸時代中期以前に確立した、化学薬品を一切使わない染色技術。カルキが入っている水では作ることができないため、天然水が近くにあることは必須条件だった。
また、鹿児島で藍をするにあたって後押しとなったのが、鹿児島の「灰汁」の文化。

「天然灰汁発酵建は『灰汁』という字が付くんですが、それはカシやツバキなどの堅木を燃やしてできる灰をお湯に入れて作る灰汁。鹿児島で言う『あく巻き』(もち米を灰汁に浸し竹の皮に包んで煮る郷土料理)を作るときの灰汁が必要なんですが、鹿児島県は枕崎に鰹節工場があって、鰹をいぶすときに出る堅木の灰が容易に手に入る。そういった文化があることも鹿児島で藍をやると決めた理由でした」

南さつま市に住む神園一俊さん(前編)

藍染に適した環境を求め、鹿児島市の郊外や、お茶づくりが盛んな霧島市の溝辺、南九州市の知覧など県内各地を訪ね歩いた。その間の収入は建設業の派遣。藍染の工房を開くことが目標としてあったため、場所選びや準備のために時間を確保しやすい就業形態を選んだ。また、工房を構えるとき建設業の経験が役に立つだろうという考えもあった。

呼ばれるようにたどり着いた

「ここには道に迷ってたどり着きました」

いまこの藍染屋がある場所は偶然見つけたという。そのいきさつは、県内各地を探し回って4年ほど経ったころ、現在の藍染屋がある近所に空き家があり、最初に紹介されたのはその空き家だったそうだ。神園さんは気に入ったが、家主が年に一度そこに親戚で集まりみそづくりをするため、借りることが難しいことが分かった。その後別な場所を紹介され足を運んでみるも件の空き家が忘れられず、再びこの場所に来たところ道に迷ってしまった。

「あの家はどうなっているだろう、また見てみようと思ってきたが道に迷った。山の上から降りてきたらここの石蔵が見えて、奥の方を見たら家があった。周りの環境も見たら『ここしかない』と思いましたね。呼ばれたような気がします」

神園さんを惹きつけた石蔵。現在は「Studio No.4」という看板を掲げ、藍染作品を展示販売している

神園さんを惹きつけた石蔵。現在は「Studio No.4」という看板を掲げ、藍染作品を展示販売している

※鹿児島に移住して4年目に、ようやく天然灰汁発酵建をするにふさわしい環境を見つけた神園さん。後編では地域の人たちとの関係構築や染色技術のこと、またこの先の展望についてお話を伺います。

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