プロローグ
美しい島の自然に憧れて移住を果たし、樟脳作りを続ける内室さんの今。
そしてこれからについて話を聞いた。
インタビュー:満崎千鶴 撮影:高比良有城 取材日2020年3月
覚悟を決めて受け継いだ“樟脳つくり”
2007年に屋久島へ移住してきた内室さんは現在、奥様の紀子さんと長男の春太郎くん(8歳)、長女の百花ちゃん(4歳)の家族4人で暮らしながら、樟脳(クス(楠)から生まれる天然の防虫剤)作りの工場を営んでいる。二郎さんの工場へお邪魔すると、大きく深呼吸したくなるような楠の良い香りに包まれていた。
「屋久島に移住した2007年からこの仕事を始める2015年までは、移住前と同じようにアルバイトをしながら写真を撮るという生活を続けていました。振り返ってみると8年間もそんなことをしていたんですね(笑)そんな時、化学合成ではない昔ながらの天然の樟脳を作っていた知人から、工場を引き継いでやってみないか?と声をかけて頂きました。正直最初はとても迷ったけれど、妻が始めた椿商店も自然食品を扱うお店だったので、やってみようと決意しました。」と二郎さん。
人にも環境にも優しいとされる天然の防虫剤、『樟脳』は果たしてどのようにして作られるのか?
「まず、山から切ってきたクス(楠)をチップ状に細かく粉砕します。粉砕したチップを樟脳釜と呼ばれる大きな釜に入れ、水蒸気蒸留法(高温の水蒸気を送りチップを蒸す手法)で蒸すと、原料に含まれる精油の成分が気化し、水蒸気とともに上昇していきます。
その水蒸気を冷却水槽へと送り冷ますと「水」と「精油」の2層に分かれます。精油をさらに冷却することで、結晶化した100%天然素材の『樟脳』が採れるのです。」と丁寧に説明してくれた。
予想以上に手間と時間、そして体力も必要となる『樟脳』作りは苦になりませんか?と尋ねると、「黙々と作業することが苦ではないし、クス(楠)と向き合って仕事をしているのがすごく楽しい。向いてたんですね(笑)」と、笑顔であっさり答えてくれた。
採取された精油や樟脳は工場の隣にある二郎さんの作業場にて可愛らしくパッケージングされ、椿商店の店頭に並ぶ。
作業場の窓からは新緑が芽吹き始め、黄緑や薄緑に色づいた屋久島の山景色が広がっていた。二郎さんは時より、コーヒーを片手に窓越の景色を楽しんだり、趣味のギターを弾いたりしながらゆっくりと流れる穏やかな時間を楽しんでいる。
家族と目指すこれからの暮らし
内室さんご家族の休日の過ごし方はもちろん、海・川・山と屋久島の大自然の中で思いっきり遊ぶ事。取材にお邪魔した日も、よく遊びに出かけるという一湊海岸へと案内してくれた。
現地に着くと、すぐに靴を脱ぎ捨てバケツを片手に走り出す春太郎くんと百花ちゃん。春太郎くんは砂浜に隠れているカニを探し始め、百花ちゃんは一生懸命何かを探してはバケツの中へと入れ始めた。
「写真を撮るために屋久島に通っていた時は、こんな美しい自然が被写体でしか無かったけれど、“暮らし”になると見方が変わりました。夏になると休日は海と川の繰り返し。“自然の中に入り込める”という感覚になりました。」と二郎さん。
「私たちは、とにかく屋久島の自然に憧れて移住してきました。でもこの島で生まれ育った子供たちにとってこの景色は当たり前にある自然なんですよね。これから島の中でも色んなことが変わり続けていくだろうけど、この自然を守り続けて行くのが親の役目だと思っています。将来、子供たちに“父ちゃん!昔はこんなんじゃなかったよ!”と言われることが無いように…。自分たちがこうして遊んでいる海や川はいつまでも綺麗で遊べる場所であってほしいな。」
この日、百花ちゃんのバケツの中を見せてもらうと、せっせと集めていたのは浜辺に落ちているゴミだった。きっと綺麗な貝殻やシーグラスを探したりするのが女の子の楽しみなんだろうけれど、美しい自然を守り続けて行きたいと願う両親の気持ちが無意識のうちにちゃんと承継されている証なのだ。
二郎さんに、「もう一度移住生活をスタートし直すとしても屋久島を選びますか?」と尋ねると、「絶対に屋久島を選びます!私たちはこの島が大好きです!」と答えてくれた。
内室さんの鹿児島暮らしメモ
かごしま暮らし歴は?
13年目です。
Iターンした年齢は?
33歳
U•I•Jターンの決め手は?
自然の素晴らしさ
屋久島の好きなところ
自然の素晴らしさや、面白い人がたくさんいるところ。悩みを抱えていると親身になってアドバイスをくれる温かい人たちがいるところ。
かごしま暮らしを考える同世代へひとこと!
女性と違って男性は大きな決断を下す時は結構悩むけれど、一度きりの人生なので自分のやってみたいことをうまくイメージして成し遂げでください!