
路上で活動するケナガネズミ
世界で奄美大島、徳之島、沖縄島北部だけに分布するケナガネズミ。日本最大のネズミの仲間で、鼻先から尻尾の先までの全長は約60㌢にも及ぶ。学生時代には、沖縄県で飼育されていたケナガネズミの日周活動に関する卒業論文を執筆したこともあり、私にとっては愛着のある動物である。
ケナガネズミは奥深い森林に生息する。これは少し前までの印象だった。しかし、5年ほど前から疑いたくなるような場所での目撃情報が、相次いで届くようになった。奄美市名瀬の下方地区や上方地区、奄美地区、さらには金久地区など、市街地のど真ん中で撮影された写真が送られてきたのだ。
それだけに留まらず、「民家の屋根裏にケナガネズミがいた」「家の庭で音が聞こえると思ったらケナガネズミだった」「公園でランニングをしていたらケナガネズミが芝生にいた」。そんな話を聞くことが続いた。そういうときには必ずそのネズミの特徴を聞いていたのだが、いずれもケナガネズミと思われる返答だった。
ちょうどその頃、私も市街地近くの路上でロードキル個体を回収した。本来、ケナガネズミは夜行性なのであるが、白昼堂々、街中を歩いていたという話も聞いている。ここ1~2年くらいはそういった話が減っているように感じるが、それはそれで気になるものだ。

ガードレールを移動するケナガネズミ
なぜ、ケナガネズミが市街地に出没するようになったのか。主に森林で活動する夜行性のネズミが、昼夜問わずに、しかも市街地で活動しているという状況を考えても、単純に個体数が増えたからという理由では済まされないように思っている。いつ、どこで、どの成長段階の個体が、どのような状態で発見されているのか。まずはこれらの情報を可能な限り集めてみて、現状を把握してみることから始めようと思う。
アマミノクロウサギの推定個体数が増加していることが環境省から公表され、ケナガネズミと同様に市街地の近くまで活動範囲を拡げてきている。奄美大島に分布する哺乳類の生息状況は短期間で明らかに変わっている。こういった現状を学術誌などに発表し、今の奄美大島で起きていることを発信しなければという使命感に駆られている。
(奄美博物館)