東京大学大気海洋研究所の前田達彦さん(25)=博士課程2年=は昨年11月に鹿児島県・奄美大島に移住し、奄美市や大和村の河川を中心にオオウナギの生態を研究している。従来ウナギでは解剖が中心だった胃の内容物の確認に、チューブを使って吸い出す方法を用いるなど、非致死的な(殺さない)調査手法も確立中。「オオウナギの生態系における役割を明らかにしたい」と日々河川に繰り出している。
前田さんは土用の丑(うし)の日でなじみのニホンウナギの名産地である愛知県西尾市一色町出身。小学校ではウナギを調べる授業や養殖場の見学などがあり、ウナギには子どもの頃から親しみがあった。
養殖ウナギの餌の研究をした高知大学を経て、環境との関わりなどより大きな視点で研究をしようと東大大気海洋研へ。前田さんが所属する研究室では10年以上前から奄美大島でオオウナギの生態を調査している。
修士課程では環境が変化した際のウナギの行動を調べるため、奄美大島に短期間滞在。大和村の大棚川で上流域に生息するウナギを下流域に放し、下流域にいるウナギを上流域に放したときに、それぞれ元の場所に戻ってくるかを調査した。研究成果は海外論文誌に投稿、有識者の査読を経て今年5月に掲載された。
研究が楽しく進学したという博士課程は、河川生活期のウナギの生態がテーマ。太平洋のマリアナ諸島西方海域で産卵、ふ化するオオウナギは黒潮に乗って奄美などに来遊し成熟するまで河川で暮らす。「奄美にはめちゃくちゃたくさんウナギがいる」と移住し、週に3~4回河川で採集調査をしている。
記者が同行した8月15日は、早朝から電気ショッカーと呼ばれるウナギなどを一時的にまひさせる専用機器を背負い、網を手に川に入り、石の隙間や落ち葉の下などウナギが好む場所をくまなく探索。河口から約160メートルの範囲を約3時間かけて調べ、12~57センチのウナギ34匹を採集した。
採集したウナギは現地で一匹一匹大きさや重さなどを計測。重さが10グラム以上の個体には個体識別用のICタグを埋め込み、採集したウナギはすべて元の場所に戻した。
胃の内容物を確認する際には、ウナギの口からチューブを入れ、チューブのもう片方の口から吸い出す手法を実践。解剖することなく効率的に胃の内容物を取得できるかを検証することも研究の目的の一つで、その理由を「ウナギ属には絶滅が危惧される種が多い一方、食性調査はサンプル数が多く必要。資源保護になれば」と語る。
採集には専用機器を使うため県大島支庁から許可を得ている。採集地区の区長にもあいさつしているが、採集時に住民から通報されることもあるといい「不審者が通報されるのはいいこと」と話す。
ウナギの魅力を「動きの滑らかさや、細長くて強そうではないのに河川の生態系の頂点(上位捕食者)にいる点」と語り「都会よりも田舎が好き」という若手研究者の奄美での研究成果が楽しみだ。