奄美大島いきものがたり

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◎本格的に生き物好きへ~高校・浪人時代編

 前回、幼少期から中学時代までの生き物との思い出を紹介した。大島高校に進学した私は引き続き野球部に所属し、部活動中心の日々を送っていた。そうした生活の中で唯一残っている生き物観察の記憶は、大島高校の上部グラウンド鉄塔にドラミングするオーストンオオアカゲラだ。奄美大島固有の鳥が間近で観察できたことがうれしく、携帯電話で必死になって動画を撮っていた。

 部活動を引退した後、私は夜の森を訪れていた。そのとき、路上にたたずむアマミヤマシギの姿は一生忘れることはないだろう。私の中にある「生き物スイッチ」のようなものが完全に「ON」になった気がした。それからは母親に頼んで道幅が広くて安全な峠道に足しげく通うようになり、念願のアマミノクロウサギにも遭遇した。それまでは「図鑑上の幻の存在」と思っていただけに、その夜は興奮が冷めることはなく、朝まで眠られなかった。

アマミヤマシギ

アマミノクロウサギ

 1年目の大学受験は、地域の環境問題が学べる大学の教育学部を受験した。しかし、高校まで野球一筋だった私は、全ての試験に惨敗。そのまま奄美大島に残り、自宅浪人をすることとなった。浪人1年目の生活は楽しかった。昼間は同じく浪人していた友人と勉強に励んだ。夜は通称ハブ捕り名人と一緒に、浪人中とは思えない頻度で夜の森に通った。私の生き物に対する熱量は、日に日に増幅していった。しかし、肝心な勉学は思うようにいかず、2浪目に突入した。

 鹿児島本土で働いていた父親と兄のもとへ行き、私は1年間限定という約束で小さな予備校に入った。もともとの点数が低かったことは否定できないが、浪人2年目とは思えない成長曲線を描いて成績が向上した。私は一つの事に熱中できる性格だと思っているのだが、そのベクトルがついに勉学に向いたのである。奄美大島と生物相が似ている沖縄県の大学を受験することに決め、琉球大学理学部海洋自然科学科生物系の合格を勝ち取ることができた。

 少し前までは浪人生活が「挫折」だと感じていたが、今ではこの2年間が私に必要な時間だったと思うようになった。人生で初めてぶち当たった壁に対して、妥協することなく第一志望に合格できたことは自信にもなった。1年目の浪人生活で通いつめたフィールドワークの経験は、今になっても役立っている。
 最近、生物学を志す中高生やその保護者から受験の相談を受けることが増えてきた。現役で合格することが理想的ではあるが、本当に行きたい大学があるのなら、「あきらめずに頑張った方がよい!」と伝えるようにしている。
 次回は大学時代について報告したい。

                                  (平城達哉・奄美博物館学芸員)

 

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