「カトリック迫害」熱演 劇団群島=「泉の聖女」、奄美の歴史語り継ぐ

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 「忘れ去られていく島の歴史を語り継ぎたい」。劇団群島(森和正代表)の公演「泉の聖女~軍の要塞と白亜の殿堂~」が12、13の両日、鹿児島県奄美市名瀬のアマホームPLAZAであった。奄美大島のカトリック迫害の史実を基にした会話劇。1924(大正13)年に名瀬町(現奄美市名瀬)に開校したカトリック系私立学校「大島高等女学校」が10年で廃校に追い込まれるまでの経緯や、学びやを奪われた生徒の痛切な思いを観衆に伝えた。

 同劇団は県立大島高校演劇部の出身者らを中心に1970年ごろ発足し、88年を最後に活動を中断。昨年2月に同市名瀬で36年ぶりの復活を果たし、今回がその後2度目の公演。

 「泉の聖女」は第2次世界大戦前(昭和初期)の奄美大島が舞台。日本軍による大島海峡の要塞(ようさい)化が進む中、カトリック関係者にスパイ容疑がかけられた史実に基づく物語。当時の奄美では、国際情勢の変化に伴うカトリックへの偏見も拍車をかけ、嫌がらせや教会が壊されるなどの迫害が進んだ。

 序章ではキリスト教と奄美の歴史にも触れた。それによると、奄美大島では1891(明治24)年に宣教師が来島しカトリックの布教活動を開始。1917(大正6)年には北部を中心に約5千人の信者がいたという。

 劇は老いた新聞記者が自身が書いた記事を悔いる場面から始まった。序章を挟み、時代はさかのぼって昭和初期へ。瀬戸内町古仁屋の要塞の機密情報が書かれた地図を役人が紛失し、村長に相談に来る場面となり、そこに議員と若い頃の新聞記者が訪れる。

 解決策を探る中、議員の発案で「大島高等女学校の校長で神父が地図を盗んだ」という話をつくり上げることが決まった。その話を聞いた女学校に通う村長の娘は反発するが、記者は事実を湾曲する記事を書き世論を誘導した。

 悪者にされた神父は退職し日本を出ることに。女学校も廃校が決定。最後の卒業式で村長の娘が送辞を述べる中、キリスト教の話に触れると怒号が飛ぶ。それでもひたむきに自分の信じる道を歩もうとする生徒や、戦争へ向かいつつある日本の国民としての意識を問われ、葛藤する島民の心境を描いた。

 観賞した朝木一昭さん(76)=同市名瀬=は「奄美のカトリックの歴史をよくひも解いて演じていた。素晴らしかった」と絶賛。

 脚本を手掛けた奄美2世の布藤聡子さん(46)=愛知県豊橋市=は2022年の夏に奄美に訪れた際に父親が購入した書籍「聖堂の日の丸~奄美カトリック迫害と天皇教~」を読んで脚本制作を決めた。「奄美の人たちが礎になって日本の今の平和があると強く思ったので、島民にも歴史を知ってほしいし、愛知でも上演したい」と語った。

 生徒役を演じた林彩乃さん(33)は「劇団群島の団員としては初舞台。カトリック迫害の歴史を知り、ふがいない、やるせない、理不尽極まりないという憤りを感じた。公演をきっかけに歴史を知る人が増えれば」と話した。

 村長役を演じた森代表(72)は「あまり知られていない、忘れ去られていくような歴史を風化させてはいけない。劇を通して次世代に語り継いでいくという思いで演じた」と力を込めた

奄美大島のカトリック迫害を題材にした劇団群島の舞台=12日、奄美市名瀬

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