環境省主催のシンポジウム「奄美の世界自然遺産登録とこれから」が11日、鹿児島県奄美市名瀬の集宴会施設であった。奄美・沖縄の世界自然遺産地域科学委員会の委員らが、多様な生き物がすむ奄美大島の自然の価値や、遺産の保全と活用の在り方について講演した。官民の地元関係者を交えたパネルディスカッションがあり、世界遺産を生かした地域づくりを話し合った。
シンポジウムは奄美・沖縄の世界自然遺産登録1周年を記念して開催。会場には約70人が来場した。
科学委員会は奄美・沖縄が遺産候補地だった2013年に設置され、登録に向けた価値の証明や、自然環境の適正な管理について専門的な助言を行ってきた。
講演した委員長の土屋誠琉球大学名誉教授は、奄美大島には絶滅危惧種や固有種を含め重要な生き物が多いとして、遺産の登録地の保全だけでなく、人里に近い周辺エリアも「変わらず重要」と指摘。SDGs(持続可能な開発目標)など国際的な環境保全の具体策をヒントに、「世界へ向けて自然を保全し、恩返しするモデルを発信しよう」と呼び掛けた。
副委員長の米田健鹿児島大学名誉教授は、奄美大島の起伏に富んだ地形が多様な環境を生み出し、多様な野生生物が生き残ったと解説し、温暖化の進行で、植物の開花時期など野生生物に影響が出ていると指摘。人の活動の影響を受けやすい遺産地域の周辺エリアの保全の重要性を訴えた。
委員の小野寺浩鹿児島大学客員教授は、「奄美の自然や文化の独自性は世界に通じる」と評価。今年1月に発足した国内の登録地域で構成する「世界自然遺産5地域会議」の活動として、5地域が連携した政策提言や、25年に開催される大阪・関西万博でのメッセージの発信などを紹介した。奄美・沖縄の登録を機に「新しい自然保護や地域振興を世界にアピールしたい」と述べた。
パネルディスカッションは安田壮平奄美市長、喜島浩介奄美大島エコツアーガイド連絡協議会会長、民間企業などでつくる世界自然遺産推進共同体事務局長の栄正行日本航空奄美営業所長、環境省奄美群島国立公園管理事務所の阿部愼太郎所長を交えて、奄美の自然と文化の魅力や、これからの地域づくりについて話し合った。