全国でクマなどの野生動物出没が多発する中、鹿児島県奄美群島でも毎年イノシシなどの動物によって数千万円単位の農作物被害が発生している。駆除にあたるハンターの重要性が高まる一方、高齢化や本業の兼ね合いもあって、自治体からの依頼に対して即座に対応できる人員が少ないという課題がある。現場からは理解を求める声が上がる。
■猟友会の活動
狩猟活動を行うハンターは狩猟免許を取得し、県で登録する。主な活動は指定された区域で原則11月15日~翌年2月15日の3カ月間行われる「狩猟」と、農作物を守るため市町村から委託される「有害駆除」がある。
狩猟免許は使用できる猟具に応じて、網漁、わな猟、第一種(装薬銃)、第二種(空気銃)の4種類に分類される。県猟友会大島支部(泉正男支部長)によると、18日現在、奄美群島内の狩猟登録者は前年度比24人減の371人。うち、わな猟のみが最多の222人となっている。
■農作物被害に役割増す
県大島支庁農政普及課によると、2019年度以降の鳥獣による農作物被害は、19年度9781万円、20年度7187万円、21年度3532万円、22年度3354万円、23年度4393万円。イノシシによる被害が半数以上で、サトウキビや果樹が全体の約8割を占める。
奄美群島の自治体で駆除対象となっているのは、イノシシ、カラス、ヒヨドリなど。喜界町では個体数が増加傾向にあるシカも含まれる。近年はイノシシの餌となるシイの実が凶作で、人里周辺の個体発見例が増えており、狩猟者の役割は増している。
■農家のため「ボランティア」
有害駆除は駆除した個体の一部や写真を提出することで、自治体から報奨金が支払われる成果報酬型。報酬額は自治体によって異なり、イノシシ(成獣)は1万5千円前後、カラスは1千円前後など。ガソリン代など出動に必要な経費への補助はない。
山中で活動するハンターは危険が伴う。仕留めた獲物を運ぶ際に転倒して骨折したり、わなにかかったイノシシに襲撃されてケガをしたりするケースも。今年は瀬戸内町での有害駆除中、ハブの咬傷(こうしょう)被害も発生した。泉支部長(84)は「危険度が高い一方、お金はさほど出ない。農家のためにボランティア精神でやっているところがある」と現状を語る。
■若手育成、助成あれば
奄美支部に登録している狩猟者の平均年齢は62・8歳(4月1日現在)。高齢化に加えて、本業に従事している人が多く、自治体からの駆除要請に対応できないことも多い。同支部管内では奄美大島と徳之島で年間各1回、狩猟免許試験が行われているが、近年の支部会員数は横ばいだ。
現在も現役ハンターとして活動する泉支部長は「以前は奄美大島に猟銃を扱う店舗やクレー射撃場があり、若い人が猟に興味を持つ環境があった。会員の高齢化が進めば、有害駆除もままならなくなる」と危惧する。資格試験の受験料や試験会場までの交通費など、若手のなり手育成に対する自治体の助成制度に期待を寄せる。
また泉支部長は、全国の自治体で進みつつある狩猟免許を保有する職員「ガバメントハンター」の導入についても言及。農作物の被害情報は自治体に一元化されるとして、「市町村に専属の職員がいることで、円滑な駆除対応が可能になる」と指摘している。

今も現役で狩猟活動を行う県猟友会大島支部の泉正男支部長=20日、奄美市名瀬

