奄美市市制施行20周年記念2025年度第9回奄美博物館講座「消えたY染色体の謎を追う―アマミトゲネズミの不思議」が8日夜、鹿児島県同市名瀬の同館であった。北海道大学大学院の黒岩麻里教授が登壇。雄の出現に関係するY染色体を消失し、独自の性決定の仕組みを持つアマミトゲネズミやトクノシマトゲネズミの進化の不思議に迫った。
トゲネズミの仲間は、世界にアマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ、オキナワトゲネズミの3種が存在し、それぞれ奄美大島、徳之島、沖縄島北部の固有種。いずれも国の天然記念物に指定されている。
通常、哺乳類はXとYの二つの性決定に関する染色体を持ち、XXの組み合わせで雌、XYで雄になる。Y染色体にあるSRY遺伝子が雄になることを決定付けるが、アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミはY染色体を持たずに雄が出現する。
講演会で黒岩教授は20年以上にわたるトゲネズミ研究の成果を紹介。トゲネズミ3種の祖先はY染色体消失の過程で二つの「選択」をしたとして、アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミは精子を作る遺伝子など一部遺伝子がYからX染色体に移動したと説明。一方、オキナワトゲネズミはX、Y染色体がX、Y以外の染色体である常染色体の一部と融合、巨大化し消失を防ぐ「時間稼ぎ」になっているとした。
また、アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミの遺伝子情報を調べた結果、常染色体の一つで、エンハンサーと呼ばれるDNA配列が雄のみ重複していることを発見し、これがSRY遺伝子に変わる性決定因子として機能していることを突き止めた。
世界でY染色体を持たない哺乳類はこれら2種と海外の一部地域に生息するネズミの仲間1種の計3種のみで、黒岩教授は「トゲネズミは世界的に注目されている。Y染色体が消えてしまっても雄がいなくならない進化を奄美の自然が育んだ」と締めくくった。
人間のY染色体にある遺伝子の数は減少しており、数百万年後には消えてしまう可能性があるという。

北海道大学大学院の黒岩麻里教授がトゲネズミの不思議を解説した奄美博物館講座=8日、奄美市名瀬

