奄美群島認定エコツアーガイドの越間茂雄さん(鹿児島県奄美市名瀬)=(58)=は8月29日夜、奄美市名瀬の農道上で、国の天然記念物ケナガネズミがベンケイガニを捕食しているところを撮影した。越間さんは「20年ほどガイドをしているが、甲殻類を捕まえて食べるのを見たのは初めて。これもマングースなどの外来種対策が進んだおかげ」と話し、思いがけない出合いを喜んだ。
越間さんはナイトツアーの案内中、金作原へ向かう途中の道路上でカニを食べているケナガネズミを発見。その日はすぐに逃げてしまいゆっくりと観察できなかったが、翌日の同じ時間帯に再び捕食シーンに立ち合うことができた。
越間さんが息を殺して見守っていると、ケナガネズミはカニを押さえ付け、時折反撃に遭いながらもハサミを食いちぎることに成功。ハサミと脚をすべてもぎ取ってから胴体部分を食べ、満足そうに森に返って行った。食べ終わるまでの時間は15分ほどで、ハサミをもぐ間、ケナガネズミは目をつぶって反撃に耐えていたという。
ケナガネズミは奄美大島と徳之島、沖縄島の固有種で、体の大きさが20~30㌢と国内最大のネズミの仲間。尾が胴体より長く、先の半分は白い。背中の長い剛毛が名前の由来。夜行性で主に樹上で生活する。奄美大島では特定外来生物マングースの根絶やノネコ(野生化した猫)の対策が進んだこともあり、近年生息数が回復している。
越間さんは「数が増えたことでこれまで分かっていなかった生態が分かってくるかも。農業被害も発生していると聞くが、うまく付き合いながらこうした生き物が普通に見られる島になってほしい」と話した。
環境省奄美群島国立公園管理事務所の鈴木真理子希少種保護増殖等専門員によると、ケナガネズミは木の実のほか昆虫やカタツムリなども好んで食べる雑食性だが、カニを捕食するところが撮影されるのは珍しいという。8月から9月にかけてはケナガネズミの繁殖期で行動が活発になるため、同省はロードキル(交通事故死)への注意を呼び掛けている。