集団規律を重んじる時代から多様性の時代へ─。社会の変化に伴い、全国でジェンダー平等に配慮した制服の普及や校則を見直す動きが広がっている。鹿児島県・奄美群島内の学校でも時代に合わせた変化が見られる。奄美大島の龍郷町の中学校などでは、選択可能な制服の導入や、校則を男女差のないものに変更するなど新たな取り組みを実施。多様な価値観を尊重し、児童生徒の「過ごしやすさ」を意識した学校づくりが進んでいる。
■男女差なくす
龍郷町赤尾木の赤徳小中学校(堀内俊勝校長)は今年度、校則に男女を区別する表記をなくした。児童生徒たちは学校指定の制服から、それぞれが着用するものを選択できる。暗黙のルールとなっていた上履きの性別による色分けも廃止。髪型は、男女関係なく肩より長い場合は後ろで束ねるとした。
室屋綾教頭は「赤徳校区は、海外出身者や移住者も多い地域。考え方もいろいろある。性別などで決めつける必要はない」とさまざまな価値観を受け入れる姿勢だ。
校則の変更について保護者の女性(47)は「自分のスタイルや個性が出せていいと思う。人と違うことで変に思われるのではという心配をする子も少なくなるのでは。少人数の学校から奄美全体にも広がっていけば」と話した。
■「決まりだから」で済ませない
同町浦の龍南中学校(碇山信行校長)は、昨年8月に教職員、生徒会、PTA役員などで構成する制服検討委員会を組織。2024年度から新しい制服を導入する計画を進めている。
女子のセーラー服、男子の詰め襟をブレザーに統一し、スラックスやスカートを自由に選択できるよう検討中。正面玄関付近には各種サンプルも展示している。一斉導入ではなく、新、旧どちらでも着用できる移行期間を十分に設け、家庭に経済的負担がかからないよう配慮する。
同校では生徒会や生徒指導担当の教諭らが中心となり、校則の見直しも実施。耳回りを短くカットする髪型「ツーブロック」の禁止を撤廃した。生徒指導担当の岡島慶貴教諭は「時代に合わない校則も多く、『なんで駄目?』との声に『決まりだから』では済ませたくない」と語る。
生徒会役員の鈴木乃衣さん(3年)は「落ち着いて学習するのに必要な校則もあるが、ゆるくしていいのではと思うものもある。制服は冬の寒さなどの問題もあり解決できるのはうれしい」と話した。
碇山校長は「大人が『中学生はこうあるべき』と決めた校則ではなく、これからは生徒と教員が対話を通して距離を縮めながら、過ごしやすい決まりを考える必要がある。自分たちで判断・行動する経験は、将来より良い社会をつくることにもつながる」と期待した。ㅤㅤ
■主体性を重視
こうした動きを後押ししているのは、昨年12月に文部科学省が公表した「生徒指導提要」の改訂版だ。生徒指導の考え方や実践方法をまとめた教職員向けの基本書で、初めて作成されたのは2010年。時代の変化に合わせて12年ぶりに改訂された。
初版では学校が集団生活の場であることを明記した上で、校則は「児童生徒の行動などに一定の制限を課すことができる」とした。一方、改訂版は「少数派の意見も尊重しつつ、児童生徒個人の能力や自主性を伸ばすものとなるよう配慮する」としており、さまざまな意見や状況を踏まえながら、積極的に決まりを見直すことが求められる。
龍郷町教育委員会の當房省吾指導主事は「これからは児童生徒たちが主体的に考える『プロセス』を重視する指導が大切。学校が社会の変化に敏感になっていく必要がある」と話した。