南大隅町の人々を農業で笑顔にしたい! 未来へ翔る24歳の決意<前編>

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地域農業の担い手の高齢化や後継者不足が叫ばれる現代。その一方で、食の安心・安全に対する関心の高まりや、人間らしく自分らしい生活への回帰といった価値観の多様化を受けて、地方移住や新規就農を志す人が少しずつ増えている。

岩手県出身の大杉祐輔さんは、新規就農のため、2018年4月に南大隅町へやって来た。大学時代の農業研修で地域の人の温かさにふれ、地域に変化をもたらす農家になりたいと考えたという。この秋の就農を目指して、準備に奮闘する24歳の今を語ってくれた。

コラム:里山 真紀 撮影:高比良 有城 2018年8月取材

本土最南端の地「佐多岬」

本土最南端の地「佐多岬」

新規就農のステージは、本土最南端の南大隅町

大隅半島の南部にある南大隅町は、本土最南端の佐多岬を有する町。南東側は大隅海峡、西側は錦江湾に面しており、三方向を海に囲まれた半島の先端にある。この町の一番の魅力は、手つかずの自然と圧倒的な景観だ。

たとえば、本土最南端にある国立公園には、希少な原生林があり、その先の佐多岬からは、種子島・屋久島などを望める大パノラマが広がっている。また、大河ドラマのオープニング映像で有名になったのが、雄川の滝だ。エメラルドグリーンの滝壺は神秘的な美しさを醸し出し、見る人の心を穏やかに癒してくれる。

2018年4月、南大隅町根占(ねじめ)に移住してきた一人の男性がいる。新規就農を目指す大杉祐輔さんだ。東京農業大学を卒業後、栃木県で2年間の農業研修を経て、念願の移住に踏み切った。

物心ついた頃から仕事に関心があり、将来は何をしようかとずっと考えている子供だった。定年になっても続けられる仕事がいい。それならば好きなことをしたい。自然や動物に関われる仕事はないか。そうだ、農業だ。10代で進む道を決めた。

「大学で学んでいたのは、発展途上国の農業開発です。貧困削減をテーマに勉強していたので、将来はアフリカでNPOを立ち上げて、国際協力のプロとしてコンサルタントのような仕事ができればいいなと考えていました」

大河ドラマ「西郷どん」のオープニングで話題の「雄川の滝」は南大隅町にある

大河ドラマ「西郷どん」のオープニングで話題の「雄川の滝」は南大隅町にある

根占の農家が教えてくれた仕事の後の一杯のおいしさ

そんな大杉さんが初めて南大隅町を知ったのは、大学に入学して間もない18歳の頃。所属していたサークルの農業研修がきっかけだった。岩手県出身で、鹿児島には縁もゆかりもなかった。

「みんなが根占、根占、と言っていて、最初は何だろう?と思っていました」

祖父母は小規模ながら農業を営んでいたが、子供の頃はふれることもなく、農作業はまったくの未経験だった。現場で学べるのはいい機会だと思い、参加を決めたという。

初めての鹿児島。初めての農作業。ゴールデンウィークの南大隅町はすでに暑かったが、汗だくでじゃがいも農家の作業に取り組んだ。農作業の後の食事は格別においしいことを知った。あっという間に南大隅町が好きになり、長期休みのたびに農業研修に通い詰めたという。大学時代だけでその数は10数回にのぼった。

「サークルのOGの方を中心に南大隅町には10組以上の受け入れ農家がありました。バラ、じゃがいも、肉牛、ブロイラーなど、その種類も多彩で。本当にいろいろなことをやらせていただいて、農業の多様性がこの町の魅力だと思いました」

30代から60代と幅広い世代と知り合えたのも収穫の一つだった。

「同じ農家さんでも人それぞれ考え方が違うので、話を聞くだけでも面白いんです。だんだんつながりが見えてきて、地域や風土もわかるようになってきて。鹿児島に来るたびに、どんどん面白くなってきました」

こうして農業の面白さに目覚めていった大杉さん。南大隅町のみならず、全国各地へ農業研修に出かけていた。

砂浜が広がる「ゴールドビーチ大浜海水浴場」

砂浜が広がる「ゴールドビーチ大浜海水浴場」

地域から世界へ変化を起こす農家になりたい

そんな中、将来の方向性を見極めるタイミングがやって来た。大学3年の終わりに始まる就職活動だ。

「大学に進学した当初は、農業を通じて発展途上国の支援がしたいと思っていたので、自分が農家になるつもりはなかったんです。ただ、根占に行ったり、岩手県の過疎地に行ったりしているうちに、日本の農業にもさまざまな問題があると気づきました。

地方の農村は高齢化と過疎化で人口減少が進み、このままでは魅力的な地域がどんどんなくなっていってしまいます。これまで自分は世界のことばかり見ていましたが、まずは日本で頑張っていらっしゃる農家の方々と一緒に農業をやって、地域でできることを考えていきたいと思ったんです」

まずは日本の地域でできることを、ゆくゆくは国際貢献を。自分の中の優先順位が変わった。ではどこで農業をやりたいかと考えた時、真っ先に浮かんだのが根占だった。やるならここしかない。すぐにそう思ったという。

「お世話になった南大隅町の方々がずっと笑顔でいられるような活動をしていきたいと考えました」


農業をやるなら、有機農業がやりたいという思いもあった。それは、千葉県の有機農家で食べたキャベツの味が忘れられなかったからだ。

「農業研修に行った農家で、キャベツをスイカのように4分の1の大きさに切って“はい”って渡されたんです。驚きながらもひとくち食べてみたら、それがメロンのように甘くて。何もつけずに全部食べてしまいました。それから自分も農業をやるなら、味で感動させられる野菜を作りたいと思うようになりました。

また発展途上国の農業開発を学ぶ中で、化学肥料のやり過ぎでダメになった畑があると聞いたこともあります。これから世界に農業を発信していくためには、もっと持続可能なやり方が必要だと思ったこともきっかけのひとつです」

早速、大学のOBに相談してみると、有機農業を学ぶならここがいいと、栃木県の農業研修施設を紹介された。南大隅町での新規就農を目指して。大学を卒業した大杉さんは、一路栃木県へ向かった。


◎続く〈中編〉では、南大隅町での新規就農に向けた学びをご紹介。さまざまな経験をする中で、やりたいことが徐々に定まっていきます。気になる地方での家探しのプロセスも見えてきます。

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