【episode1】武家屋敷群で営みを ツリーハウスで憩いを薩摩川内、入来町で生きる術を創る<後編>

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2012年に千葉県から薩摩川内市へIターンしてきた中川功さんと宮原郁さん。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている入来麓武家屋敷群に暮らし、農業と飲食業を営んでいる。ほぼ自己流で取り組んだ樒(しきみ)の栽培は、生計を支えるまでに成長。移住7年目のいま、地域にもすっかり溶け込んでいる。

自分らしい暮らしを確立した中川さんが、新たに挑戦したのがツリーハウスづくり。仕事の合間を縫って2017年1月から製作に励み、2018年6月に地域の人々にお披露目をされた。移住者の憧れを次々と形にしてきた2人に、ツリーハウスに託した想いと、今あらためて感じる地域の魅力について聞いた。

コラム:里山 真紀 撮影:高比良 有城 2018年8月取材

<中編はこちらから>

地域の話題をさらった手作りツリーハウス

ツリーハウス。そう聞くとあなたは何を思い浮かべるだろうか。絵本の中に出てきた木の上の家や映画の登場人物の住まいを思い出す人もいるだろう。

中川さんが作ったツリーハウスは、車が行き交う道路のすぐそばの樒(しきみ)畑の奥にある。木漏れ日が降りそそぐ林の中のハウスを見上げると、そよ風が頬をなで、鳥のさえずりが聞こえた。

「畑を耕して切り拓いていったら、その向こう側に昔使われていたような道が出てきて、周辺にくぬぎの木が生えていたんです。そこで木を切り倒して、しいたけを駒打ちし、栽培することにしました。そしたら、あまりにも涼しくて、心地いい場所だったので、“ツリーハウスを作ろう”と思いついたんです」(中川)

杉林に溶け込むように建つツリーハウス。夕日に照らされると、幻想的な趣を増す

設計図は頭の中で描き、木材は主に地元の建設会社から譲り受けた廃材を使った。購入したのは屋根のトタン波板などごく一部。材料費は3万円程度しかかからなかったという。

「作り始めた時は冬でお店があまり忙しくない時期だったので、仕事が終わるとすぐに現場に行って。一人でコツコツと作っていましたね」(宮原)

少しずつ形になりはじめると、興味を持つ人があらわれ、2018年からは薩摩川内市の地域おこし協力隊も作業に加わった。1人から3人体制になったことで製作は一気に進み、結果的に予定より早くお披露目にこぎつけた。

「(農作業の)休憩にもいいじゃん、って思いながら作っていたら、ついつい大きいものになっちゃって」(中川)

地面からデッキまでの高さは約3メートル。その上には三角屋根のハウス。自然の息吹を感じながらひと休みできるようにと、ハンモックも取り付けている。

欲しかったのは、家族みんなで楽しめる場所

ツリーハウスの良さは、子供から大人まで楽しめることだ。実際に中川さんの子供と孫もお披露目に合わせて関東から遊びに来たという。

「入来は歴史の町だけれど、どちらかというと大人の世界だと思うんです。だから、子供も一緒に家族で楽しめる場所としてツリーハウスがあるといいなと考えました。観光ができて、ツリーハウスでも遊べる。そうすると、都会の家族連れにも喜ばれて、少し幅が広がるかなと」(中川)

ツリーハウスは今のところ一般に貸し出す予定はないが、イベントを計画していて、その際は解放するという。

「ツリーハウスに子供たちが集まって、山城(清色城跡)までハイキングして、Monjoのピザ釜で手作りピザを焼いて、みんなで食事して」(中川)

想像するだけでワクワクし、笑顔になれるシナリオだ。

「自分が入来に移住した時のことを思い出しても、何かコンセプトがないと来られなかったし、インパクトもないとなっていう発想なんです。入来ってツリーハウスがあるから子供を連れてきてもいいな、樒(しきみ)畑をレンタルすればなんとか移住も可能かなって、一連の流れができるように考えてみました」(中川)

自然と生きる喜び 創る喜びをいつまでも

かごしま暮らし7年目。決して仕事一辺倒ではなく、地元の温泉に浸かったり、滝を見に行ったりと、余暇も充実している。あらためて、入来の魅力とは何かと尋ねてみた。

「昔は武士がいて、その末裔が今も住んでいて、石垣が残っていて。そういうところはやっぱり魅力だなって思いますね」(中川)

「この自然のエネルギーは、都会にいたら絶対に感じられないもの。自分が何かクリエーションしていく、小さくても大きくても、何か作り上げることに喜びを感じられる人だったら、絶対に楽しいと思います」(宮原)

入来町にある長野滝。大河ドラマ「西郷どん」のロケ地として人気急上昇中のスポットだ

モノが溢れる現代にあって、都会には新しいものが次々とあらわれる。しかし、古いものをどう生かすべきか。その問いにチャレンジできるのも、田舎暮らしの醍醐味の一つだと考えている。

「もう、つまらない開発なんて全然してほしくないんです。都会の二番煎じ、三番煎じになることに何の意味があるんだろうって。
その土地の特色や文化をどう表現して、どう残していくかを考える方がいいのになって、つくづく思います」(宮原)

自宅の庭のニワトリ小屋の採れたて有精卵。Monjoの料理に使用される

「自然の中にいて、自然を感じるだけで、こんな贅沢なことは他にないと思えるんです。安心感があったり、気持ちが高揚したり。

これから宇宙に出て行く時代で、宇宙から地球を見る時代になるでしょう。その時、宝石みたいな緑の塊があって、そこに自分たちが住んでいたら、誇りを感じられるんじゃないかな。その緑をどうやって残していこうかと考えるのが、近代的な未来志向だと思います」(中川)

「未知との遭遇」をテーマに人生を切り拓いてきた中川さん。その思いに寄り添ってきた宮原さん。第二の人生に踏み出し、入来の自然と人と向き合う暮らしの中で、いま2人が噛みしめている言葉がある。それは「継続は力なり」という言葉だ。

まずは自分自身を見つめてみること。好きなことを始めてみること。そして、諦めずに続けること。生きる術を創ることは、きっとそこから始まるのだ。

 

中川さん・宮原さんの鹿児島暮らしメモ

かごしま暮らし歴は?

7年目です。

 U•I•Jターンした年齢は?

59 歳(中川さん)、53歳(宮原さん)の時でした。

 U•I•Jターンの決め手は?

 武家屋敷群に住めることです。

 暮らしている地域の好きなところ

 古いものがそのまま残っているところですね。

 かごしま暮らしを考える同世代へひとこと!

 地方の60代はまだまだ現役。70代以上でも活躍の場がたくさんあります!

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-薩摩川内市に住む中川功さんと宮原郁さん, 移住者インタビュー動画, 川薩地区【薩摩川内市・さつま町】
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