鹿児島県奄美市名瀬の朝仁海岸で今年3月、奄美大島が北限とされるワニグチモダマが刈られているのが見つかった。地元町内会や自然保護関係者が観察を続けてきたがこのほど、完全に枯死している可能性があるとして、15年来設置していた看板の撤去が決まった。誤って刈られたとみられ、奄美の自然を考える会の高槻義隆事務局長(73)は「これを教訓として、島民みんなで島の宝を残していくことについて考える機会になれば」と話した。

枯れたワニグチモダマの根元を指さす朝仁町内会長の屋村賢良さん(左)と奄美の自然を考える会の高槻義隆事務局長=10日、奄美市名瀬
ワニグチモダマは大型のマメ科のつる性植物。種子が海流に乗って運ばれ、漂着した海岸などで発芽する。環境省レッドリストで準絶滅危惧種に分類されている。
同会によると、以前は徳之島が北限だったが、2008年に同海岸に生育するアダンの中からマメ科植物の葉が確認され、09年にワニグチモダマだと分かった。10年には関係者で保護を呼び掛ける看板を設置し、同会や地域住民らが周囲の草刈りや寄生植物の駆除をするなどをしながら見守ってきた。
ワニグチモダマのつるは同じ場所にあるアダンに巻き付いていたが、今年3月と4月に根元付近が刈られているのが見つかった。当時、看板は自生地と道を挟んだ向かい側に設置されていたため、存在に気付かず、道にはみ出すアダンと一緒に刈られた可能性があるという。
朝仁町内会長の屋村賢良さん(78)は「護岸がない朝仁海岸だからこそ、種子が自然に流れ着いて生育したと思う。地域で大切に見守ってきたが、今回このような形になったのは寂しい」と肩を落とした一方、「気付かないだけで、他の海岸にもあるかもしれない」と期待した。
ワニグチモダマの生育には、気候や発芽場所の環境が影響するため定着は難しく、奄美大島で他に分布が確認されているのは宇検村の一部のみという。

アダンの木の中で枯れたワニグチモダマのつる=10日、奄美市名瀬