「バニラ」開花 奄美大島=林晋太郎さん、国内産地化へ一歩前進

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 洋菓子の香り付けに使われる天然香料「バニラビーンズ」の生産に取り組む鹿児島県奄美市笠利町の林晋太郎さん(38)の農園で、バニラの花が開花した。バニラビーンズはバニラの実を加工したもので、現在国内で使用されているものはほぼ100%が輸入品。林さんは奄美の新しい産業として本格的な生産体制の構築を目指し、「ようやくスタートラインに立った。バニラを通して奄美に新たな価値をつくり、古里に貢献したい」と意気込みを語った。

 バニラは中南米やマダガスカルなどで栽培されているつる性の着生ランの一種。インゲン豆のような細長いさやを乾燥、発酵、熟成させることで、独特の甘い香りを放つバニラビーンズができる。財務省の貿易統計によると、2021年の輸入額は約10・5億円。

 奄美市住用町出身の林さんは、九州大学農学部を卒業後2010年に農林水産省に入省。19~22年にタンザニア日本大使館に外交官として赴任し、農家支援事業でバニラと出合った。産地の気候から「奄美でも育てられる」と感じ、同省を退職して22年3月に家族と共に奄美大島へ移住。笠利町の休耕地を整備し、同年10月から苗の作付けを始めた。

 バニラが育つ同町の農園は、古いハウスの骨組みに遮光シートを掛けて葉に直射日光が当たるのを避け、地面にサトウキビの搾りかすを敷いて土壌の過剰な水分蒸発を防ぐ、という簡素なもの。この冬の寒波で数本が枯死したものの、5月30日には待ち望んだ一番花が開いた。

 植え付けから開花までは早くて2~3年とされており、育成状況は順調という。園内にはハウス4棟に約1700株のバニラが植えられ、今年は200輪の開花を見込んでいる。

 花は早朝に咲いてその日の内に枯れるため、しぼむ前に1輪ずつ手作業で授粉を行う必要がある。林さんは1株ずつ見て回って慎重な手付きで授粉作業を行いつつ、翌日咲きそうなつぼみを確認していた。一斉に開花せず少しずつ咲き進むので、作業は毎朝30分ほどで終わるという。

バニラの花の授粉作業を行う林晋太郎さん=7日、奄美市笠利町

 今後はバニラのさやの中で種が成熟するのを待って秋~冬ごろに収穫し、乾燥・熟成の加工作業を経て、来年春ごろには初の奄美産バニラビーンズが誕生する予定。来春以降は加工体制を整え、ブランディングの方向性を決めて本格的な生産体制を整えるとしている。既に輸入バニラビーンズの販売やカフェの経営を行っており、そのつながりも生かして全国の製菓店やレストランへ売り込む。

 林さんは「ここまで支えてくれた家族や友人知人に感謝を伝えたい。絶対に一人ではたどり着けなかった」と笑顔を見せ、「まだまだ先は長い。周囲の人たちや古里奄美に恩返しする意味でも、しっかりと取り組んでいきたい」と気を引き締めた。

開花したバニラの花

 

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