映画に演劇に、走り出した屋久島出身の俳優
屋久島出身の俳優、山下万希さんの初主演映画「つ。−tsu−」の配信が、昨年12月24日にアマゾンプライムジャパンで始まった。
同映画は「佐賀映画制作プロジェクトチーム」による87分の作品で、山下さんは、主役、副島祐樹を演じる。佐賀の言葉で「かさぶた」を意味するタイトル通り、否応なく将来の選択を迫られる高校3年生の憤りを抱え、スクリーンの中の副島少年は顔を歪めて走り出す。熱い心と大きな身体を持て余すかのような表情が印象深い。
山下さんが、演技に触れたのは、屋久島高校在学中、演劇部に勧誘されたのがきっかけだ。2017年に鹿児島県高等学校演劇祭で最優秀賞を受賞。2019年、主役を演じた「ジョン・デンバーへの手紙」では、第65回全国高等学校演劇大会優秀賞を受賞するという華々しいスタートだった。
屋久島高校卒業後も演劇を続けるつもりで、大学に進学したが、時はコロナ禍真っ只中。学生に限らず、演劇界は自粛ムードに満ちていた。
そんな中、出会ったのが、「佐賀映画制作プロジェクト」の参加者募集のため、佐賀大学を訪れていたU Inose(ユウ イノセ)監督だった。地元の学生、佐賀にゆかりのあるスタッフとプロの映画人が協力して、全編佐賀ロケで作り上げようという作品だ。
オーディションを経て、主役に抜擢されたが、カメラの前で演じるのは今作品が初めて。それでも「初心者の多い現場だったので、丁寧に演技指導してもらえて、落ち着いて撮影に臨めた」と話す。撮影は2022年。2023年には世界11カ国の映画祭を巡り「ARFF Paris International Awards」の最優秀作品賞をはじめ10冠を獲得。2023年11月から日本各地で劇場公開された。
一方、山下さんが所属する福岡の若手演劇ユニット「ギムレットには早すぎる」では、全国学生演劇祭大賞や審査員最優秀賞、審査員賞などを受賞。第8回全国学生演劇祭大賞・審査員最優秀賞を受賞した一人芝居「今―ちゃー」は、日本を飛び出して、中国公演も果たした。
島を出るとき、「演劇は続けたいと思っていたけれど、俳優を職業にするイメージはなかった」と話すが、大学卒業後は就職せず、所属演劇ユニットのある福岡と実家のある屋久島を拠点に、他劇団への客演や演劇プロジェクトへの参加、NHK佐賀放送局の「SAGA SOUL−さが魂−」のナレーションを担当するなど、日本各地を飛び回っている。
そして島では、森や海辺を歩き、実家である「埴生(はにい)窯」の窯焚きを手伝うなど、充電の日々を過ごしている。
「かたりびと」として2019年に取り上げられた陶芸家の山下正行さん、2022年に取り上げられた画家のあけみさんはご両親。豊かな子ども時代が、演劇にも生かされているのではと推察されるが、本人は「よく聞かれるのですが、まだ客観的に言語化できていません。ちょっと変わった職業や個性的な人に出会う機会は多かったとは言えます」と話す。
現に、窯の撮影に訪れた写真家大野雅人さんにより、演劇に出会う以前の中学時代から、被写体として多くの作品に関わり、写真を通じて国内外たくさんの人に「観られて」きた。
演劇や映画を通じて知り合った仲間や大会の審査員、様々な縁をたどって参加する作品を決めているという山下さん。「今は、可能性を限定せずに経験を積んでいる最中。縁があれば、映像にも挑戦してみたい」とその姿勢はどこまでも軽やかだ。
2025年の3月は、福岡の舞台芸術祭「キビるフェス」に「ギムレットには早すぎる」の一員として参加。パピオ ビールーム(福岡市)で3月8日と9日に新作「境目」を披露する予定となっている。
山下万希
https://www.yamashitabanki.com/
つ。
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