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廃業の危機にあった鹿児島県沖永良部島唯一の印刷会社「安田印刷」(知名町、安田佳郎代表)の事業を、同町の鉄工所役員金城良太郎さん(37)が個人事業主として引き継ぐ。全国で中小企業の後継者不足による廃業が深刻化する中、地元青年の奮起に、周囲からは安堵(あんど)と激励の声が上がっている。
安田印刷は1967年創業で佳郎社長(72)が2代目。長年、妻・久仁子さん(69)や従業員と共に島の印刷業を担ってきたが、佳郎社長が健康の不安を理由に引退を決意。後継者もなく、2024年4月末で廃業を予定していた。
印刷機械の修理などで関係があり、同社廃業の話を聞いた金城さんは「最初は誰かが引き継いでくれるだろうと思って見ていたが、誰も手を挙げなかった。もし廃業したら、これまでの客はインターネットなどで島外の印刷業者などに頼むだろう。でもネットを使わない、使えない人はどうなる? 引き継ぐんだったら、間を空けずにやろう」と判断。4月初旬、佳郎社長を訪ね、事業承継を提案した。
佳郎社長は「島唯一の印刷会社の灯を守ってくれる。行き詰まっているからやめるというわけでもない。(事業を託すのに)不安はなかった」と快諾。以来引き継ぎ業務を進め、6月1日からは金城さんが完全に事業を引き継ぐことが決まった。
「有限会社安田印刷」は解散するが、「島唯一の印刷業者であり、立地もいい。固定客もいる。そこを大事にしたい」(金城さん)と、屋号に「安田印刷」を残し、従業員もそのまま雇用。金城さんは当面、本業(鉄工所)と兼務で安田印刷の経営に当たるという。
金城さんの決断の背景には、町内で相次ぐ廃業や後継者不在に悩む声があったという。知名町商工会(会員178人)によると、昨年度は11事業所が廃業を理由に商工会を脱退、会員減少が続いている。金城さんは「時代の流れに対応するためには臨機応変に、新しい事への挑戦も必要だと思う。身内でもない僕が継ぐ事が新しい切り札になり、町の活性化にもつなげられれば」と力を込めた。
佳郎社長は「ある程度自分で作業もできないと行き詰まる。デザインや機械操作技術も身に付けてほしい。最初の1~2年頑張って軌道に乗ったら、しばらく大丈夫だと思う」と助言。久仁子さんは「誰も受け継げる人がいないと思っていたので、今まで通りここが続くと思うとうれしい。子どもたちも喜んでいる」と涙ぐみ、「印刷には歴史があり、若い方が継ぐのはとても大変かと思うが、金城さんのやるという気持ち、パワーを感じる」と期待を込めた。(沖永良部総局・榮麻紀子)