https://www.youtube.com/watch?v=my5ZQm0uv1Y
プロローグ
後編では園田さんがこの町にやって来てから宙ハウスを立ち上げるまでの経緯や、きもつき宇宙協議会の活動内容、そして将来の展望まで詳しく伺った。
インタビュー:今田 志野 撮影:高比良 有城 取材日2019年8月
地域おこし協力隊をしながら個人事業を始める
2016年4月、園田さんは地域おこし協力隊としてこの町に来た。3年間の任期中は町のイベントの裏方仕事から、観光協会の広報部隊とともにテレビ局を回るといった表に出る仕事まで、さまざまな地域おこしの仕事に参加した。協力隊の同期は自身を含め5人いて、その5人は仕事でもプライベートでも定期的に顔を合わせて仲良く過ごしていたそうだ。
そもそも自営業を目指して移住してきた園田さんは協力隊の活動をしながら、任期1年目の終わり頃に個人事業主になる届けを出す。それまで町が用意した賃貸住宅に住んでいたが、個人事業を始めるにあたり事務所兼住居となる物件を探し始めた。そこで現在の宙ハウスとなる元旅館と出会う。そこは1970年頃から宇宙開発関係者やロケット関係者の定宿として利用されていた。廃業して2年ほど空き家だったが比較的きれいな状態で残されていたという。町の中心地の大通りにあったので、園田さんがこの辺りを通るときにも目には入っていた。
「中心地に空き家があるのは町の印象として良くないし、何よりロケットに関わる人々の思い出がある建物をなるべく残したいと思って、購入を決めたんです」
2階建ての元旅館は予定していたよりもかなり広い物件だったので、この町を訪れる人々とシェアしようと考えた。そして2018年12月、民泊施設「宙ハウス」がスタートするのである。最初はシェアハウスにしようと考えていたそうだがシェアハウスは短くても月契約、通常は年間契約になる。しかしそういった長期計画でこの町に来る人はあまりおらず、1〜2週間滞在してみたいという人の方が多かったため民泊施設にしたのだという。
クラウドファンディングで費用を調達
空き家だった旅館の中は全てが和風。経年劣化もあったため、現代の暮らしに合わせて改修が必要だったが、園田さんはそれらを自らの手で行なった。畳をフローリングに張り替えたり、壁紙を貼るなどの作業をしたが、その方法はなんとYouTubeを見て習得したというから驚く。協力隊の任期2年目から3年目はほとんどの時間を改修作業に費やしたそうだ。
改修費用の調達は、町のふるさと納税の中に地域おこし協力隊を応援するクラウドファンディングがあり、それを活用した。目標額は200万円。募集期間は2017年10月半ばから約1ヶ月半だったが結果的に目標額を上回る寄付が集まった。集まった寄付金と協力隊の起業支援制度から出るお金を合わせてプロの大工さんを依頼する費用や備品の購入に充てたという。ちなみに寄付者へのリターンは宙ハウスに宿泊滞在できる権利。とくにロケットの打ち上げ時期の宿泊は寄付者優先とのこと。打ち上げ時期はこの町の宿泊施設はロケット関係者でほぼ埋まってしまうらしいので、打ち上げを間近で見られる宙ハウスの宿泊権利はロケット好きには嬉しい限りだろう。
宙ハウスがスタートしてもうすぐ1年。この間にロケット好きの人だけでなく、「ナゴシドン(夏越し祭り)」や「えっがね(伊勢海老)祭り」など地域の行事への参加者をはじめ、釣り客や観光客など様々な人がやってきた。
「宙ハウスは洗濯機もあるしWi-Fiも飛んでいるし、スーパーが近いから歩いて買い物も行けるから過ごしやすいと思います。以前、日本全国を歩いて回っているという人がやって来て、その人は夜になると共有スペースでずっと映画を観ていたんですが(笑)、『今まで見てきた民泊施設の中で一番良い』って言ってくれました。そんな風にまたこの町に来たいって思う人が一人でも増えてくれたら嬉しいですね」
移住のきっかけを作る場所
移住する時に家財道具の全てを持って引越しをするとなると、当然それなりの費用がかかる。また、人によっては気持ちの面でも負担があるだろう。しかし宙ハウスのような施設があればとりあえず旅行感覚で、いわば「お試し移住」のようなことができるのではないか、園田さんはそう考えている。
「僕も縁のない肝付町に来た当初、地域おこし協力隊の同期がいてくれて、すごくありがたかったんですよね。地域の中によそ者が一人でいるのは大変なこともあると思います。でも、僕みたいなよそから来た人が他にもいると、よそ者同士の考えも共有できるし相談もできる。そういった意味で宙ハウスは、費用的にも気持ちや考え方の面でも、段階的に地域に入っていく入り口のような、移住のきっかけを作る場所になればいいですね。いきなり飛び込むんじゃなくて、こういう場所があると移住も検討しやすいのかなって思うんです」
宇宙グッズのショップ「宙の家」がオープン
園田さんは、地域おこし協力隊の任期を今年2019年3月に終えてから、宙ハウスの運営とはまた別に「一般社団法人きもつき宇宙協議会」の従業員としても働く。きもつき宇宙協議会は、肝付町が支援するかたちで2016年4月に発足した。現在はロケットや宇宙に関わるイベントの委託事業など、肝付町をロケットの町として全国にPRする活動を主に行う。園田さんは、きもつき宇宙協議会の代表から声がかかり働くことになったという。現在、宙ハウスの一室がきもつき宇宙協議会の事務所にもなっている。
きもつき宇宙協議会は昨年2018年、内之浦宇宙空間観測所の前に宇宙グッズのショップ「宙の家」を期間限定でオープンさせていたが、それが今年2019年8月、ちょうど取材の数日前に通年営業で正式にオープンした。園田さんもそのショップ運営に携わっている。
JAXAの名前が入ったTシャツや宇宙食などの各種グッズをはじめ、きもつき宇宙協議会オリジナルのクリアファイル、ステッカーやバッヂ、手ぬぐい、女性スタッフのハンドメイドによる宇宙飛行士をモチーフにしたネックレスや星座のピアスといったアクセサリーも揃う。町の観光協会オリジナルのマスキングテープ、マウスパッド、タオルホルダーなどもあり、ここでしか手に入らない商品も種類豊富だ。見ているだけで楽しい。取材中も次々に家族連れやカップルなどが訪れていた。
民泊と移住支援をできるだけ長く続けたい
園田さんは肝付町に永住したいと考えている。今はスタートしたばかりのショップ運営と、宙ハウスでの民泊と移住支援をできるだけ長く続けていけるよう頑張りたいという。
「それが今の目標です。それらが軌道に乗れば、またやりたいことがいろいろ出てくるんでしょうけど、まずは目の前のことをしっかりやらないと」
また園田さんは「これからも肝付町からたくさんロケットが打ち上がるのを見られたらいいな」と微笑んだ。取材日の約3週間後にも種子島からロケットが打ち上がる予定で、肝付町からもその様子をはっきりと見られるそうだ。発射時刻は朝6時半くらい。園田さんは仕事に行く前に見に行くつもりだという。「ちょっとロケットを見に」という時間が日常の中にあるというのは何とも素敵だと感じさせられた。
宇宙に通じる町で今後、園田さんと宙ハウスがどのように展開していくのか楽しみである。また近いうちに肝付町からもロケットが打ち上げられるそうだ。その時にはぜひこの町で宙を貫くようなロケットを見上げてみたいと思った。
園田欣大さんの鹿児島暮らしメモ
かごしま暮らし歴は?
4年目です。
Iターンした年齢は?
37才11ヶ月弱。
Iターンの決め手は?
この町にロケットセンターがあることが一番ですが、鹿児島には移住前にも旅行で来たことがあり、会う人々や土地柄にとても良い印象をもっていたというのも決め手のひとつです。
暮らしている地域の好きなところ
人情に厚い人々。海が見える景色。鳥の声や虫の音が聞こえる静かな音の環境。流鏑馬や「ナゴシドン(夏越し祭)」など歴史を繋いでいる行事。
かごしま暮らしを考える同世代へひとこと
自分の正直な気持ちに従うことが大事だと思います。移住したら楽園ということはなく課題も出てくると思いますが、明確な強い気持ちがあると判断がしやすいのかなと思います。