南大隅町の人々を 農業で笑顔にしたい! 未来へ翔る24歳の決意(後編)

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九州本土最南端の南大隅町は、南国情緒あふれる豊かな自然に恵まれた町。エメラルドグリーンの滝壺が神秘的な表情を見せる「雄川の滝」は、大河ドラマのオープニング映像で話題になった。

そんな南大隅町で新規就農に取り組むのが、岩手県出身の大杉祐輔さん。大学時代の滞在で地元の人々の温かさに触れ、地域に変化をもたらす農家になりたいと考えたという。2年間の就農研修を経て、念願の移住を果たした今、日々の暮らしと農業に対する思いについて聞いた。

コラム:里山 真紀 撮影:高比良 有城 2018年8月取材

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移住1年目・就農直前のリアルな暮らし

南国の夏の日差しが室内に差し込む朝6時。大杉さんの1日は、デスクに向かうことから始まる。待っているのは、事務作業。2018年秋の営農開始に向けて、就農計画の書類を作成していた。集中して作業を終えると、次はキッチンへ。朝食を作り、食べてから家を出る。

ここからの先のルートは、日によって異なる。ある日はブロイラー農家で飼養管理を実戦的に学び、またある日はミニトマト農家で摘葉や整枝、収穫などを手伝う。地元の化粧品工場で軽作業に従事する日もある。

掛け持ちで働く日中に負けず劣らず、夜間も忙しい。もう一つの顔は、家庭教師だ。学生時代の塾講師の経験を活かして、中学生に英語を教えている。もともと交流のあった農家を通じて評判が広がり、現在は10人以上の生徒を抱えているという。

「仕事を通じて、地域の知り合いが増えました」

生活費と就農資金を稼ぎながら、地域の人たちと交流できるアルバイトは、まさに一石二鳥だった。目下の悩みは、就農準備のための時間が限られていること。今後も家庭教師の仕事は続けていく予定なので、タイムマネジメントが課題になるという。

南大隅町に足りないと感じるのは、「大きな書店がないこと」。読書好きな大杉さんらしい回答だ

南大隅町に根差した、顔の見える農家を目指して

採卵鶏100羽。畑40アール(約4000m2)。新規就農は、この規模から始める予定だ。営農に先駆けて、すでに自宅でひよこの飼育にも取り組んでいる。

「しっかりと命と向き合いながら農業をやりたいと思ったので、養鶏を主にすることにしました。露地栽培の畑では葉物野菜を育てることから始めてみたいと考えています」

学生時代から変わらぬ目標は、「南大隅町の人が笑顔になれる農業」だ。地域に喜ばれる作物を作り、地域の家庭へ届けること、生産者と消費者の顔の見える関係づくりを目指したいという。将来は、飼養や栽培にとどまらず、農産品の加工販売も視野に入れている。

また、農家の高齢化や過疎化が進む地域にあって、耕作放棄地の再生も課題の一つだと捉えている。大杉さんにとって、手つかずの農地は、言わば「宝の山」だ。放牧養豚などの循環型農業にも興味があると話し、将来の夢やビジョンは尽きない。

「まずは南大隅町にしっかりと根付いてやっていきたいと思っています。ゆくゆくは、地域になじむ循環システムを構築できればいいですね」 

農業の多様性に魅せられ、人の温かさに引き寄せられて

岩手で生まれ育ち、東京の大学へ進み、茨城で就農研修を行った。また、大学時代は農業研修で、全国各地の農家を訪問したという。さまざまな土地を渡り歩いても、農業の多様性を感じた南大隅町で就農したいという思いは変わらなかった。念願だった鹿児島への移住から約5ヶ月。日々の暮らしの中で感じる南大隅町の魅力とはどんなところだろうか。

「一番の魅力は人の温かさです。今でこそ僕はこんなふうにしゃべれるようになりましたが、高校時代までは人と話すのが苦手で。なかなか好きになれませんでした。

でも大学時代に南大隅町に来て、地元の方々がすごく温かく接してくださったんです。ぐいぐい入ってきてくれるというか、自分の殻を破られる感じでした。

そうするうちに、コミュニケーションの楽しさや人と話す楽しさが分かってきたんです。だからこそ、南大隅町に来たいと思えましたし、実際に暮らしてみて、その温かさをあらためて実感しています」

地域の人々の温かさが伝わる一つのエピソードがある。現在、大杉さんが暮らす古民家は10年以上も空き家の状態で、内見に来た時は床がボロボロだったという。それを修理してくれたのが、以前から交流のあった農家と集落のみなさん。引っ越し予定日の約1ヶ月前から室内を片付け、床を張り替えて、すぐに住める状態にしてくれたのだ。

「見違えるほどキレイにしていただいて、本当にありがたかったので、後日、みなさんを自宅に招待して“感謝会”を開きました。集落のほぼ全員が集まる楽しい一夜でした」

受け入れる人、飛び込む人。どちらも支え、支えられて、コミュニティが築かれていく。大杉さんの移住は、集落にとっても幸せな出来事だったに違いない。 

自宅で行った“感謝会”のスナップ。山あいの集落に笑い声が響いた 写真:大杉祐輔さん

生産と発信の両輪で、地域に人を呼び込みたい

人口7000人余りの南大隅町は、鹿児島県内で最も高齢化率が高い。集落最年少の大杉さんの負担は大きくないかと尋ねてみた。

「集落活動は盛んなところと、そうでもないところがあります。僕が暮らす大久保集落は、3ヶ月に1回程度の行事と年2回の草刈りがあるくらい。そんなに負担ではありません」 

地方への定住を望むなら、集落と上手に付き合うことも大切だ。住んでみたい集落が決まったら、自分に合う、合わないを見極めるためにも、「集落の人に話を聞いた方がいい」と語る。

「実際に足を運ぶことも大事です。1回でも現地に行けば、地域性だったり、風土だったり、いろいろなことが分かります。それでビビッときたところに深く切り込んでいけばいいと思います」

土地に触れ、人に触れ、直感的にいいと感じたところ。それが大杉さんにとっては、南大隅町根占だった。将来は、愛着のある地域に若者を呼び込む活動にも着手していきたいと考えている。

「まずは自分が農業で食べていかないと説得力がないので、しっかりと基盤を作っていきたいです。ゆくゆくは仕事の様子を発信しながら、興味がある人を引き込んでいきたい。自分なりの農業スタイルを確立しながら、地域に人を呼び込めるように、生産と発信を両立していきたいです」

鹿児島には古くから伝わる言葉がある。「泣こかい、飛ぼかい、泣こよか ひっ飛べ」。結果を恐れず、まずは行動してみよという教えだ。

独立就農にあたり、大杉さんが名付けた屋号がある。「農業開発ひっとべ」。2018年秋、100羽のニワトリと一緒に始まる挑戦は、末長く続いていくはずだ。 

大杉さんの鹿児島暮らしメモ

かごしま暮らし歴は?

1年目です。

 U•I•Jターンした年齢は?

24歳です。

 U•I•Jターンの決め手は?

新規就農を目指してやって来ました!

 暮らしている地域の好きなところ

 人がとても温かいところ。

 かごしま暮らしを考える同世代へひとこと!

 まずは実際に足を運んで、地域の方に話を聞いてみてください!

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